森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

履歴書に「英検3級」と書き足すことは、損か、得か?

DX社会できっと役立つ、とっておきの心理学を紹介。今回は心を動かす「小さな情報」の効果について紹介します。

Updated by Yuko Morimoto on May, 10, 2023, 5:00 am JST

オマケがある方がケチだと思われる?

履歴書を書くときに、ちょっとした小さな資格を持っているのだけれど、これは書いた方がいいのか、書かない方がいいのか、と悩んだことのある方も多いのではないかと思います。英検1級ならいいけれど、英検3級なら書かない方がいいだろうか?

バージニア工科大学のウィーヴァー氏らは、2014年に『プレゼンターのパラドクス』というタイトルで論文を発表しました※1。プレゼンターというのは、要するに情報をプレゼンする人のことですので、履歴書を書く側、というように考えていただければ良いかと思います。この論文の内容は、プレゼンする側は実はプレゼンを受ける側の反応を読み違えてしまうんだよ、というものでした。

ウィーヴァー氏は、次のような実験をします。参加者(プレゼンター)には、自分が大学の奨学金担当者だと想像してもらいます。大学としては、奨学金を受け取った学生に、気前のよい奨学金だと思ってもらいたいのです。これからあなたには、1,750ドル(日本円で25万円弱)の奨学金だけを与えるか、1,750ドルの奨学金に、15ドル(約2,000円)の教科書代をプラスするか、どちらにするかを決めてもらいます。さて、あなたなら、どちらを選ぶでしょうか?

この実験では、参加者の64%は、15ドルの教科書代をプラスすることを選びました。多ければ多いほど気前がいいと思われるだろう、というわけです。さて、それでは、受け取った人はどう思うのでしょうか?

ウィーヴァー氏は、別の参加者に、1,750ドルの奨学金と、1,750ドルの奨学金+15ドルの教科書代を比べてもらい、それぞれどれくらい気前がいいと思うかを答えました。その結果、あらびっくり、15ドルの教科書代が含まれる方が、つまり金額としては多くもらえるはずの条件の方が、より気前が悪く、嬉しくないと感じるということがわかりました。かくして64%のプレゼンターは、良かれと思って15ドル足したのに、かえってネガティブな評価を受けてしまったのです。こうした現象を、ウィーヴァー氏らは、プレゼンターのパラドクスと呼んでいます。