森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

履歴書に「英検3級」と書き足すことは、損か、得か?

DX社会できっと役立つ、とっておきの心理学を紹介。今回は心を動かす「小さな情報」の効果について紹介します。

Updated by Yuko Morimoto on May, 10, 2023, 5:00 am JST

少額しか渡さないのであれば、言葉だけの方がマシ

この効果は、さまざまな場面で見られます。ホテルのレビューを書いて、口頭でお礼を言われるだけのときはそれなりに「感謝された」と思えるのに、口頭でお礼を言われながら五円玉を渡されたら、すっかり感謝された気持ちが台無しになってしまいます。

デューク大学のリウ氏らによると、お礼のギフトには適切な量というものがあるようです※2。いつも通っているファッションブランドのSNSページに、結構な長さのレビューを書いて、そのブランドからお礼のメールが来たとします。このとき、5%オフの割引チケットがついてくると、お礼メールだけの時よりも、むしろ「感謝されていない」と感じてしまうらしいのですね。5%オフ。難しいところです。じゃあ10%オフならどうかというと、これがだいたい、お礼メールだけの時と同じくらい。そこから大きな割引率になるにつれて、感謝されているという気持ちはどんどん強くなっていくとのことです。つまり、お礼としてギフトを渡すなら、しっかりと渡した方がいい。少額しか渡さないのであれば、言葉だけの方がマシ、ということになります。

ちなみに、リウ氏らの研究では、少額でも感謝の気持ちを伝えるための、2つの方法が提案されていました。5%は5%でも、「1%オフから5%オフまでしか選択肢がない中から、なんと最大の5%を選んだんですよ!」という見せ方をするという方法がひとつ、少額を「あなたに差し上げます」ではなく、「あなたの代わりに慈善事業に寄付しました」と伝える方法がひとつ。ただし、いずれにしてもただ感謝を言葉で伝えるのと同じくらいの効果しかなかったそうです。

ネガティブ情報は小さなネガティブとともに

さて、このプレゼンターのパラドクス、ネガティブな情報のときにも起こるということが示されています。先ほど紹介したウィーヴァー氏は、政府職員に協力してもらい、「高速道路のポイ捨てを減らすにはどちらの方が効果的だと思うか」という質問をしました。一つは、750ドル(約10万円)の罰金のみ。もう一つは、750ドルの罰金と2時間の社会奉仕。さあどっち?

この場合もやはり、86%の政府職員が「750ドルの罰金と2時間の社会奉仕」を選びました。その方が、厳しい罰だと考えたのですね。ところが、一方で自分が運転する立場だと想像した大学生たちは、2時間の社会奉仕がついた方をむしろより軽い罰だと感じていることが示されました。

わかります。大学生の方が変ですよね。プレゼンターである政府職員の方が正しい。しかし、運転する人たちがより「厳しい」と感じた、750ドルのみの罰則の方が、ポイ捨てを減らす罰則としては、より効果的と言うしかありません。

この効果は、さまざまなリスクの呈示においても大きな効果を持っています。たとえば薬の副作用として、発作の可能性を高める薬と、発作の可能性プラス鼻詰まりや疲労感も高める薬、どちらがリスキーでしょうか? 客観的に言えば、2番目の薬の方がより多くの副作用の可能性があります。しかし、実は2番目の薬の方が、リスクが小さいと思われてしまうというのです※3。つまり、より正確にリスクを理解してもらおうと、小さなリスクまでしっかりと紹介すると、なぜか逆に、「なるほど安全な薬だ」と思われてしまうということになります。病院で副作用を説明されたときには、軽い副作用に判断を惑わされないようにしないといけません。

これは、たとえば禁煙のメッセージはどういうふうにするのが効果的か、という問題にもつながってきます。ガンや脳卒中について書いてあるだけならリスクが大きいと思われるところ、シワや歯周病についても追加で書くと、かえってリスクが小さいと思われてしまいます※3。しかし政策立案者の側に立つと、シワや歯周病についても書いた方がより禁煙を促すことになるだろうと誤って考えてしまうのです※4。ビジネスや政策立案という観点からだけではなく、公衆衛生という観点からも、プレゼンターのパラドクスは、重要な問題になると思われます。

これを応用すると、たとえば大きな失敗をしでかしてしまったときは、小さな失敗についても一緒に報告すると良いかもしれません。「おかーさん、おねしょしちゃった!あと、お茶もこぼしちゃった!」