森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

履歴書に「英検3級」と書き足すことは、損か、得か?

DX社会できっと役立つ、とっておきの心理学を紹介。今回は心を動かす「小さな情報」の効果について紹介します。

Updated by Yuko Morimoto on May, 10, 2023, 5:00 am JST

トータルではなく平均で評価される

さて、最後になりますが、みなさんは書籍のタイトルやオンライン記事で、「○○すべき10の理由」というようなタイトルをご覧になったことがあるかもしれません。ここまで読んでこられた方はピンときたかもしれませんね。前述のウィーバー氏は、別の論文で、「あなたが○○をすべき10の理由」というようなやり方は、相手に○○をやらせたいのであれば、むしろ逆効果だよという報告もしています※4。

ネバダ州は、2012年に若者を投票に向かわせるため、「若者が投票に行くべき10の理由」というキャンペーンを実施しました。ウィーヴァー氏は、10の理由を提示するよりも、その中から厳選した強力な理由3つ(「若者は誰よりも長く結果を背負って生きていくのだから、選挙で得るものも失うものも一番多い」など)だけを読ませた方が、投票する気持ちは強くなるだろうと予測しました。そしてやはり、オリジナルの10の理由全部を読んだ若者よりも、厳選された3つの理由だけを読んだ若者の方が、投票を重要だと感じ、投票に行こうと考えるようになっていました。

「運動をすべき10の理由」、「○○大学に行くべき10の理由」など、他のテーマでも同様の結果が得られています。ウィーヴァー氏は、説得の効果が平均化されてしまうために、このような結果になっているのだと述べています。「多ければ多いほどいいだろう」という戦略が、全体の説得力の平均値を押し下げてしまい、かえって説得力を落としてしまうのだ、というわけです。

さて、あなたが履歴書を書いているときに、ちょっとした資格情報を加えるべきかどうか、と迷ったら、全体の平均を下げるような情報かどうかを考えるのが良いかもしれません。全体的に素晴らしい履歴書なのに、英検3級と書いては、印象が下がってしまうかもしれませんからね。

なお、英検3級という例を本文中で出したのは、私自身が運転免許の他に持っている資格が、英検3級だけだからです。……あ、ほら、ダメですよ。評価を下げないでくださいね!

参考文献
1. Weaver、 K., Garcia、 S. M. & Schwarz、 N. The Presenter’s Paradox. J. Consum. Res. 39、 445–460 (2012).
2. Liu、 P. J. , Lamberton, C. & Haws、 K. L. Should Firms Use Small Financial Benefits to Express Appreciation to Consumers? Understanding and Avoiding Trivialization Effects. J. Mark. 79, 74–90 (2015).
3. Khan、 U. & Kupor, D. M. Risk (Mis)Perception: When Greater Risk Reduces Risk Valuation. J. Consum. Res. 43、 769–786 (2016).
4. Weaver, K. , Hock, S. J. & Garcia, S. M. “Top 10” reasons: When adding persuasive arguments reduces persuasion. Mark. Lett. 27, 27–38 (2016).