暮沢剛巳

暮沢剛巳

ドームの屋根の内側を利用したプロジェクションマッピング。(著者提供)

パンデミックの最中でも成功したドバイ万博に学ぶ、大阪万博をコケさせないための視点

2021年に開催された東京オリンピックは失敗に終わったといっていい。その最大の要因は予期せぬパンデミックによるものであると考えられているが、同じような条件で開催されたドバイ万博は盛況に終わっている。この差は何だったのか。また、今ひとつ国民のコンセンサスが得られていないなかで進められている大阪万博は、今後どのような準備をすれば成功するのか。1年後のドバイ万博跡地を見ながら考える。

Updated by Takemi Kuresawa on April, 27, 2023, 5:00 am JST

世界的なパンデミックのなかで開催されたドバイ万博

ドバイ国際空港から地下鉄で約1時間強、終着駅のDUBAI EXPO2020の最寄に位置する万博会場の跡地は、人影こそまばらだったものの、まだまだ開催当時の雰囲気を濃密に漂わせていた。

ドバイ万博は2021年10月1日~2022年3月31日の期間、UAE(アラブ首長国連邦)のドバイで開催された国際博覧会(登録博)である。参加国・国際機関は192に、会期中の入場者数は約2,400万人に達した。当初目標の2,500万人にはわずかに届かなかったが、当初の予定より1年遅れの上、コロナウイルスの感染拡大中の開催であったことや、開催国であるUAEの総人口が約989万人であることを考えれば、この数字は十分盛況の部類と言っていい。

ドバイの万博開催が決定したのは2013年11月27日のBIE(博覧会協会)総会においてである。この総会には、2020年万博の招致を目指して他にイズミル(トルコ)、エカテリンブルク(ロシア)、サンパウロ(ブラジル)の3都市が立候補していたが、中東初の大義名分と豊富な資金力を背景に、当初から本命視されていたドバイは終始有利に招致戦を進め、エカテリンブルクとの決選投票を116vs47の大差で制して招致に成功した。

招致に成功したドバイが、重要なPRの機会として位置づけていたのが2015年のミラノ万博であった。この万博に参加したUAEは、自国のパビリオンでスマホを携帯した現代の少女が遊牧生活を送っていた祖父母の時代へとタイプスリップするという映像によって砂漠から都市国家へと急激に発展していった軌跡を辿り、大規模なソーラーパークの様子を紹介し、豊富な石油・天然ガス資源に安心することなく、エネルギー政策にも取り組んでいることを訴えていた。もちろん、自国開催の万博のPRにも余念がなく、この展示を見た私は、5年後はぜひここを訪れてみたいと思ったことを覚えている(結果的にそれが実現したのは、そのさらに2年半後であったが)。

駅から見たエントランス
駅から見たエントランス。中央のドームの奥に会場が広がる。両脇の建物はホテル。(著者提供)

万博の開催計画に関しては、市の東部に438ヘクタールの広大な会場用地が確保され、また地下鉄の延伸によってアクセスが整備された。開催にあたっては「Connecting Minds, Creating the Future(心をつなぎ、未来を創る)」をメインテーマに、その下にMobility(流動性)、Opportunity(機会)、Sustainability(持続可能性)という3つのサブテーマが設けられていた。万博を統括する博覧会協会(BIE)が1900年代以降万博の課題解決型イベントへの転換を打ち出していることを踏まえれば、「心をつなぎ」はSNSが広く普及した社会を、またサステナビリティは今後の環境対策を強く意識したテーマであり、いかにも現代らしいと言えよう。

エントランスのドーム近くに立つUAE館。設計はサンティアゴ・カラトラバ
エントランスのドーム近くに立つUAE館。設計はサンティアゴ・カラトラバ。(著者提供)

広大な会場は3つのテーマに応じてゾーニングされた。右側にモビリティ、上側にサステナビリティ、左側にオポチュニティが配された会場はさながら花冠のようであり、中央の胚珠の位置には大きなドーム屋根が、その傍らにはホスト国であるUAEのパビリオンやホテルが建てられた。夜間にはドーム屋根の内側を用いたプロジェクションマッピングが行われており、連日様々なイベントが開催されていた会期中の賑わいが偲ばれた。

日中の会場
日中の会場。(著者提供)

会期終了から約1年経過していることもあり、会場はさすがに閑散としていた。パビリオンもかなり取り壊しが進んでいて、日本館などはすでになくなっていたが、一部のパビリオンはまだ残っていて、夜になるとライトアップが為されていた。また各ゾーンのアーケードやエントランスのドームはそのままだったので、ここが万博会場であることは容易に視認することができた。既存の施設を可能な限り新しい都市のインフラに転用しようというレガシー戦略の一環なのだろう。

夜間の会場
夜間の会場。パビリオンは17:00で閉館するが、会場は夜間でも自由に散策できる。(著者提供)