暮沢剛巳

暮沢剛巳

ドームの屋根の内側を利用したプロジェクションマッピング。(著者提供)

パンデミックの最中でも成功したドバイ万博に学ぶ、大阪万博をコケさせないための視点

2021年に開催された東京オリンピックは失敗に終わったといっていい。その最大の要因は予期せぬパンデミックによるものであると考えられているが、同じような条件で開催されたドバイ万博は盛況に終わっている。この差は何だったのか。また、今ひとつ国民のコンセンサスが得られていないなかで進められている大阪万博は、今後どのような準備をすれば成功するのか。1年後のドバイ万博跡地を見ながら考える。

Updated by Takemi Kuresawa on April, 27, 2023, 5:00 am JST

サステナビリティを打ち出すために、スクラップ・アンド・ビルドとは訣別

さて、2025年4月末に開幕を控えた2025年の大阪・関西万博まであと2年、直近に開催された万博であるこのドバイ万博から学ぶべき点は少なくない。

カザフスタン館
ライトアップされたトルクメニスタン館。現存するパビリオンの多くはこのような形で活用されていた。(著者提供)

最初に挙げられるのがその会場計画である。既に述べたように、ドバイでは万博終了後も基幹部分であるドームやアーケードがそのまま残されているほか、多くのパビリオンがそのまま存置されている。従来、万博会場と言えば、会期終了後は一部のモニュメント以外はすべてのパビリオンを取り壊すことが当然であったが、今回のドバイ万博では既存の施設の多くを存置する方針だという。サステナビリティ重視を打ち出す上では、今までのようなスクラップ・アンド・ビルドとは訣別する必要があるということだろう。EVに統一されたモビリティ、チケットの電子化によるペーパーレス、3種類のゴミの分別などにも同様の姿勢を見て取ることができる。万博の招致決定後、大阪府及び大阪市は会場予定地の夢洲が所在する此花区と隣接する北区の2拠点を連携させ、来場者が回遊できるような仕組みを作りたいと表明している。現時点でその具体的な手立ては不明だが(個人的には、それが以前からしばしば話題になっている統合型リゾート(IR)ではないことを願いたい)、ドバイ万博の会場計画は大いに参考になるはずだ。

ドバイ万博は会場電力の多くが太陽光。大阪万博もエネルギー施策を大々的に打ち出すべき

次に挙げられるのがエネルギー対策である。繰り返すが、ドバイ万博では、エネルギー資源の豊富なUAEにあって、石油も天然ガスもほとんど採れないドバイの地域性もあって、会場電力の多くが太陽光によって賄われていたが、この方針は課題解決を志向する昨今の万博とも相性の良いものだった。2025年万博の招致が決定した際、松井一郎大阪府知事(当時)は「これまでの万博の常識を打ち破る、世界の課題解決を実現する、そういう万博でありたい」との意気込みを表明した。松井は2023年春に政界を引退したが、この方針は現在も継続されているはずであり、とすれば2025年の大阪・関西万博では、会場電力の一部を原子力発電で賄った1970年の大阪万博とは一線を画したエネルギー対策が求められるだろう。

撤収されないロシア館とウクライナ館。両国との関係も考えるとき

ロシア館
ロシア館。(著者提供)

その一方で気がかりな点もあった。会場では既に多くのパビリオンが撤去されていたが、そうしたなかにあってロシア館とウクライナ館はほぼ手つかずの状態であった。両国ともに、撤収に着手できるような状態ではないことは容易に想像がつく。ある意味では、この廃墟(と呼ぶにはあまりにも真新しかったが)こそ、万博後の会場に投影された「世界の縮図」だったのかもしれない。

ウクライナ館
ウクライナ館。人の立ち入りは禁止されたまま放置されていた。(著者提供)

言うまでもなくその原因は、2022年2月24日、突如としてロシアがウクライナへと侵攻し、戦争が始まったことにある。万博が終盤に差し掛かった時期、「心をつなぎ、未来を創る」という開催テーマを裏切るかのように始まったこの戦争は、1年経った現在も終結の気配がない。開催まであと2年と迫った大阪・関西万博に関して、ロシアは開戦前にいち早く参加の意向を表明したものの、開戦後には日本国政府や大阪府の関係者は一貫して「今の状況での参加は想定されない」と否定的な反応を示す一方で、いまだに参加の意向を表明していないウクライナに対しては「是非参加して欲しい」と歓迎の意を示している。果たして大阪・関西万博にロシアとウクライナは姿を現すのだろうか。私には事態の推移を見守ることしかできないが、個人的には、一刻も早く和平が成立し、両国ともに参加できる状況が到来することを願っている。