野口諒子

野口諒子

国際的な危機が増すなかで、クラウドは海外に依存したままの現状。高品質でリスクに強い「国内クラウド」を検討すべき

国家の危機管理の指標の1つに食料自給率があります。日本は長年、食料自給率が低い状況が続いていることはご存知でしょう。そうした状況下で、ウクライナ危機などによる国際的な食料の流通に変化が生じると、一気に食料品の値上げが進むことは、まさにいま多くの家庭や飲食店の方々が直面している課題です。

ここで視点を変えて、データを蓄積、利活用するクラウドに目を向けてみると、食料と同様に海外事業者への依存が高く、「クラウドの国内自給率が低い」ことがわかります。「食料は問題でも、クラウドなら問題ない」「米国のクラウドだから大丈夫」――そう言えるでしょうか。

Updated by Ryoko Noguchi on June, 8, 2023, 5:00 am JST

セキュリティ確保のためには国内クラウドが不可欠

国内クラウドの2つの条件を満たすと、国内法の適用範囲内でサービスが提供できます。言い換えれば、外国の法律の適用範囲外になるのです。よく比較されるのが外資系クラウド、いわゆるメガクラウドのサービスですが、日本で利用されている多くは米国の事業者が提供しています。国内リージョンに限定した利用でなければ、データは海外のデータセンターに保管されます。国内リージョンのみを利用している場合も、米国の事業者は米国の法律に従いますから、国際環境の変化などでどのような条件が課されるかは日本でコントロールできません。

こうした状況に対比する位置づけとして、国内クラウドがあると考えればいいでしょう。実際に国内クラウドを使うメリットを、2つの側面から見ていきます。1つはセキュリティ確保、もう1つは国内産業の活性化です。

セキュリティ確保の側面では、ガバメントアクセスの懸念があります。政府の権力でクラウド事業者の情報にアクセスする危険性です。平時には大きな問題はないとしても、国家間のトラブルが起きたときに自分のデータが他国の政府に流れたり、ロックダウンされて使えなくなったりするリスクはゼロではありません。

ガバメントアクセスの懸念はデータそのものだけでなく、データの属性情報などの間接的な情報にも及びます。クラウド事業者は、データの内容については関与しませんし、技術的にも見ることはできません。直接的にはデータの中身は漏れないとしても、利用容量などの情報についてはどうでしょうか。通常、クラウド事業者が契約者の情報を第三者に流すことはあり得ませんが、特定の省庁のクラウド契約が増えたり、トラフィックが急増したりといった状況があれば、有事にはそれらの利用状況などの情報からインテリジェンスが得られる可能性があります。データに不随する情報を含むデータ主権とセキュリティ確保を考えると、国内クラウドに優位性があるでしょう。

コスト面でも、米国の事業者のサービスはドル建てで請求され、為替レートの変動で支払いが急増する経験をしている企業も多いはずです。国内事業者が提供する国内クラウドでは、為替の変動によるコストへの影響リスクなどがないことも安心点の1つになります。

2つ目が国内産業の活性化の視点です。日本国内で使われるクラウドサービスは、冒頭の調査の例を見るまでもなく米国のハイパースケーラーのサービスがほとんどを占めています。特定のハイパースケーラーの技術者はそのクラウドサービスに特化した技術のエキスパートではありますが、他のクラウドサービスを使いこなすためには勉強をしなおす必要があります。状況の変化により、クラウド事業者を乗り換えたいと思ったときに、乗り換えにくい環境が出来上がってしまうのです。

そうした環境が継続していることで、現状では国内大手のクラウドはそれなりにシェアを持っていたとしても、ハイパースケーラーとはケタが違います。シェアの差は投資力の違いに表れ、最終的には技術力の差になります。国内の技術力を高め、国内の労働力の価値を高めるためにも、国内クラウドの活性化はこれから不可欠になるでしょう。