松浦晋也

松浦晋也

(写真:JAXAデジタルアーカイブス / JAXA

生活や経済だけではない。人類は地球をマネジメントできる時代に

人類は衛星による地球観測という手段を得たことで「時間的にも空間的にも十分に高密度な」「全地球的な情報を」「継続的に」入手できるようになりつつある。これは、地球をマネジメントすることが可能になっていくことを意味する。人類の情報の使い方のヒストリーを踏まえ、これからの情報の使い方を探る。

Updated by Shinya Matsuura on June, 19, 2023, 5:00 am JST

「情報的に地球の複製を作る」ことすら可能に

この事実は今現在、巨大な変化を社会に引き起こしつつある。

地球観測という人類が20世紀に手に入れた情報収集手段を、「情報の公開」が「情報の秘匿」よりも簡単かつ低コストになった時代状況の中で、どのようなポリシーで使っていくのがもっとも良いのかを、考えていかねばならない。

地球観測で得られるデータは、地球という星に関する広範なデータだ。高分解能光学観測による建物の変化、街並みの変化、空港に駐機する航空機の数、道路や駐車場の混雑状況など、日々の経済活動に直接関連する情報から、一気に広い地域を観測する衛星による地形、地質、植生、土壌の水分含有量、海水温の分布、海面におけるプランクトンの世界的分布のように自然科学に有用な情報など、多岐に渡る。

技術の進歩と工夫が組み合わされば、全地球的な「ありとあらゆる地球の情報」が手に入ると言っていいだろう。
1回だけの観測ならば、それはある特定の時点における「地球の情報」でしかない。しかし、継続的に観測を続けることで、変化する地球の状況を捉える「地球の歴史」となる。複数の衛星を使って観測頻度を上げるならば、リアルタイムで変化し続ける地球を情報的にまるのまま把握するということになる。

それは「情報的に地球の複製を作る」作業といってもいいかもしれない。しかも、集まった生の情報を組み合わせ、解析することで、我々は新たな情報を入手することができる。

今、我々は衛星による地球観測という手段を得たことで「時間的にも空間的にも十分に高密度な」「全地球的な情報を」「継続的に」入手できるようになりつつある。

人類が全地球をマネジメントする可能性

「時間的にも空間的にも十分に高密度な」「全地球的な情報を」「継続的に」入手できる——その意味は、「人類が全地球をマネジメントする可能性」を意味する。人類が地球という星の環境をマネジメントし、自然リソースをマネジメントし、自らの生存領域をマネジメントし、もちろん環境の一部としての人類の生活活動や経済活動をマネジメントする——もちろん、すぐに全面的にできることではない。しかし、完全に夢物語として片付けることでもない。全地球的な気候の制御は現時点では夢物語だが、現に人類の経済活動で排出された温室効果ガスは、地球の環境を変化させている。これは地球環境を破壊し、人類の生存を危うくする可能性のある危機だ。が、別の方向から観れば、人類が気候に働きかけて気候を制御できる可能性を示唆しているとも言える。

気候の制御のような、おおがかりな話ではなくとも、すでに我々はある程度、地球観測情報による環境の制御に成功している。安全保障に使う偵察衛星だ。人類もまた地球上に生きる生物の一種であって、大きな視点に立てば、世界各国が行う外交や政治もまた、地球環境の一部に他ならない。あるいは資源開発や土地利用などの経済活動もまた、地球環境の一部である。