小松原織香

小松原織香

スタジオジブリの最新長編アニメ「君たちはどう生きるか」をレビュー。本当に最後の作品か?

宮崎駿とその倫理について考察を続けてきた小松原織香氏は、長編アニメーション作品「君たちはどう生きるか」をどのように観たのだろうか。

※ネタバレ注意

Updated by Orika Komatsubara on July, 15, 2023, 5:00 am JST

余計な知識や情報は一切無用

2023年7月14日、宮崎駿監督の長編アニメーション作品「君たちはどう生きるか」の公開が始まった。今回、この作品の宣伝は一切なかった。予告映像はもちろん、キャラクターデザインや声優のキャスト、どんな作品なのかというヒントは全くない。タイトルと、鳥のなかに人間が隠れているようなイラストのポスター1枚だけが、この作品の情報だった。

私は九州に出張中だったので、天神ソラリアという博多の中心部にある映画館に朝9時の回に観に行った。最速の上映回なので、誰も内容を知っている人はいない。客席は2、3割が埋まっているだけだ。子どもはゼロ。夏休みに公開されるスタジオジブリのアニメーション映画としては寂しい限りだ。あまりにも宣伝がなかったため、この映画のことを知らない人も多いのだろう。

異例の上映体制だが、作品を観て、すべて納得がいった。この大人向けだし、事前情報なく観るべき映画だ。私が想起したのは、黒澤明監督の「夢」だ。「夢」では、いくつもの夢を繋ぎ合わせたような、ストーリーも判然とした幻想的な作品だ。「君たちはどう生きるか」も、主人公が現実から夢想の世界へと入り込み、過去の映画作品や小説をモチーフにしたシュールレアリズム的な場面が脈絡なく続いていく。それを、頭で解釈するのではなく、感性を開いて作品世界に没入していくような映画である。余計な知識や情報は無用なのだ。

私自身、評を書くためにメモ帳を膝に置いて鑑賞を始めた。だが、そんなものは必要ないと気づいて、あっという間に諦めた。そのため、今も自分の記憶をたどって原稿を書いており、登場人物の名前のような基本情報すら曖昧だ。パンフレットもまだ発売されていないからだ。そのため、この評もできれば作品を観た後に読んでほしい。何も考えず、何が起きるのか全くわからない不安の中、主人公とともに作品世界を楽しむのが一番良いと思う。