町田英之

町田英之

(写真:branislavpudar / shutterstock

危険な高所作業やウクライナ情勢に伴う穀物価格の上昇。デジタルは日本の畜産農家を救えるか

肉や鶏卵、乳製品など私たちの日々の「食」を支えている畜産業。今、国内畜産業界において、その存続にかかわるような問題が起こっていることをご存じでしょうか。高齢化や後継者不足に加え、飼料価格高騰の影響、2024年問題など、現場はさまざまな問題に直面しているのです。現実的な問題解決方法としてのデジタル技術の活用について紹介します。

Updated by Machida Hideyuki on September, 12, 2023, 5:00 am JST

目前に迫る物流業界の「2024年問題」

畜産特有の事情から、負担を余儀なくされている状況もあります。メーカーから畜産農家などに飼料を輸送する運転手は、一般的な運送業務のほかに飼料輸送に付随するさまざまな特殊作業を行うことになります。
農場に入る際は、家畜の健康を守るために車両の消毒、作業服や靴の着替えが必要です。また飼料タンクの残量確認を農家に代わってすることもしばしば。飼料輸送の前に飼料残量を確認しなければならず、運転手は遠距離を複数回確認しに行くことも少なくありません。飼料はバルク車など特殊な大型車両で運び、高いタンクに登って補充を行います。

飼料不足に気がつくのが遅れた場合、飼料メーカーは農家からの突然の注文にも対応し、その農家専用の飼料を製造・輸送しなければならず、大変な手間が発生します。 また農家からの注文は未だ電話かFAXが多いことから、聞き間違えなど人的ミスが発生することもあり、そのムダも問題となっていました。

さらに現在は、物流業界をゆるがす「2024年問題」にも対峙しなくてはなりません。2019年の「働き方改革関連法」施行以降、さまざまなセクターで長時間労働や非正規労働者の待遇格差の是正が進んでいます。
これまで適用が猶予されてきた物流業界も、2024年4月から時間外労働が上限年960時間に規制されます。また、月60時間を超える時間外労働に対する割増賃金も引上げられるのです。
運転手の労働時間が短くなることで実質的に人手不足が加速する上、割増賃金の導入で輸送コストの高騰が懸念されるため、物流業界の「2024年問題」と呼ばれています。この法適用を前に、畜産業は大きな曲がり角に直面しています。

飼料の生産拠点は太平洋側の一部に集中しているため輸送は長距離に及びます。また、前述のとおり飼料メーカーは農家から急な注文があるたびにトラックの再手配や製造計画の見直しをするため、集荷場や卸売市場でのトラック運転手を待たせる時間が生じています。あるデータでは農産品について輸送能力が3割不足するという予測がされており(「第3回 持続可能な物流の実現に向けた検討会」 資料1 (経済産業省 ・ 国土交通省 ・ 農林水産省))、畜産農家にとっては毎日必要な飼料の輸送体制を維持できなくなる恐れがあるのです。