森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

メタバースで無双したければ、遠慮なく理想的な外見のアバターを選ぶべき

仮想世界で自分のアバターを選ぶときですら、どことなく遠慮しながら自分のキャラクターを選んではいないでしょうか。しかし、人の行動が実は見た目によって大きく左右されているとしたら……? 外見を好きに選べる世界では、あなたが中身も含めて理想的なキャラクターそのものになることは難しくないのかもしれません。

Updated by Yuko Morimoto on August, 22, 2023, 5:00 am JST

背が高くなると強気になり、外見がよくなると他人に近づく

スタンフォード大学のイー氏らは、背の高いアバターと背の低いアバターを使い、自分の背が高い(あるいは低い)と感じさせられたときのふるまいを調べました※1。まず、参加者と実験協力者に、ヴァーチャルリアリティの世界に入ってもらいます。このとき、参加者は実験協力者のアバターより10cm高くて相手を見下ろすような視線になるアバターか、実験協力者のアバタより10cm低くて相手を見上げるような視線になるアバターか、そのいずれかを使いました。なお、参加者には相手の実験協力者は自分と同じように集められたただの参加者だと信じさせています。

その状態で、参加者と実験協力者には100ドル(約1万4千円)が渡されます。第1試行では、参加者はこの金額を実験協力者(=他の参加者)との間で自由に分けていいと言われます。全額自分のものにしてもいいし、全額相手にあげてもいい。ただし、相手がその分配額を聞いて、NOと言ったら二人ともなにももらえません。さああなたならどうしますか? 

背の高い人ほど多くを自分に分配したのでしょうか? 実は、第1試行では、背の高さは分配額に影響していませんでした。背の高い条件では平均54%を、背の低い条件では平均55%を自分に多く分けていて、差はなかったのです。

第2試行、今度は実験協力者が100ドルを分ける番です。ここで実験協力者は50%ずつ分けることを選びました。そして第3試行、再び参加者が100ドルを分ける順がやってきます。背の高さの影響が出たのはこのときでした。背の高いアバターを使った参加者は平均61%を自分に、背の低いアバターを使った参加者は平均52%を自分に多く分配したのです。背の高い参加者が、ちょっと強気に出てきたのがわかります。

そして最終試行、実験協力者が75ドルを自分に、25ドルを参加者に分けるという宣言をしました。背の低いアバターを使った参加者の72%がこれを受け入れたのに対し、背の高いアバターを使った参加者で受け入れたのは38%だけで、残りは分配を拒否していました。なんと、使用しているアバターの背が高いというだけで、相手の不公平な扱いに反発するようになったというのです。

イー氏らは、他にも、アバターの外見的魅力度を変化させて、他人との距離の詰め方に違いがあるかを調べています。外見のよいアバターを使った参加者は、外見のよくないアバターを使った参加者に比べて、ヴァーチャルリアリティ空間の中で実験協力者の近くまで歩み寄り、自分について多くのことを話していました。外見がよくなると、他人との距離を詰めることが容易になるようです。イー氏らは、アバターによってふるまいが変わる現象を、ギリシャの神様にちなんでプロテウス効果と呼んでいます。