森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

メタバースで無双したければ、遠慮なく理想的な外見のアバターを選ぶべき

仮想世界で自分のアバターを選ぶときですら、どことなく遠慮しながら自分のキャラクターを選んではいないでしょうか。しかし、人の行動が実は見た目によって大きく左右されているとしたら……? 外見を好きに選べる世界では、あなたが中身も含めて理想的なキャラクターそのものになることは難しくないのかもしれません。

Updated by Yuko Morimoto on August, 22, 2023, 5:00 am JST

引き締まっているからアクティブにふるまう、悪役っぽいから悪いことをする

プロテウス効果は実際のパフォーマンスにも影響を与えるようです。パリ大学のギーガン氏らは、発明家アバターを着用した参加者は、普通のアバターを着用した参加者よりも、クリエイティブなアイデアをスムーズにたくさん思いつくことを示しています※2。外見をそれっぽくするだけで思いつくアイデアがクリエイティブになるなんてびっくりですよね。

また、運動に前向きになれるかどうかにもアバタが影響します。肥満児の運動促進としてエクササイズゲーム(Wii Sports)を使った研究では、通常体型のアバターを使った肥満児は、肥満体型のアバターを使った肥満児よりも、運動全体に前向きで、やる気があり、ゲームに対するモチベーションが高く、ゲーム内での成績もよかったという結果が報告されています※3。同様に、大人でも肥満アバターを使うよりも通常体型アバターを使う方が身体活動量が増える※4,5というのですから面白いですよね。現実世界に当てはめると、運動するから痩せるという関係だけではなく、痩せているから運動量が多いという関係もあるのかもしれません。

最後に、悪役っぽい外見が行動に与える影響を調べた研究をご紹介して終わりにしましょう。イリノイ大学のユン氏ら※6は、参加者に5分間ゲームをプレイしてもらいました。ゲームの中で、参加者は、スーパーマンのアバターか、ヴォルデモート卿(ハリーポッターの悪役)のアバターのいずれかを着用しました。ゲームが終わったら、「次の参加者」が味見をする飲み物にチリソースを好きなだけ入れるように言われます。ご想像の通り、ヴォルデモート卿のアバタを使ったあとの参加者は、スーパーマンのアバターを使った後の参加者に比べて、チリソースをたくさん「次の参加者」が味見をする飲み物に入れていました。悪役アバターを使うと、悪いことをしたくなるのでしょうか。

私たちは、気づかないうちに、自分の身長や体重、見た目のよさや悪役っぽさからいろいろな影響を受けているようです。また、アバターをどんな見た目にするかによって、オンラインライフ、そして現実世界においても、大きな影響を受けてしまう可能性があるかもしれません。ちなみに私がよく使っているアイコンはネコなのですが、どんな影響を受けているのでしょうか。きっと仕事中に寝そべってゴロゴロしたくなるのは、このアイコンのせいなのでしょう。

参考文献
※1. Yee, N. & Bailenson, J. The Proteus Effect: The Effect of Transformed Self-Representation on Behavior. Hum. Commun. Res. 33, 271–290 (2007).
※2. Guegan, J. , Buisine、 S. , Mantelet, F. ,Maranzana, N. & Segonds, F. Avatar-mediated creativity: When embodying inventors makes engineers more creative. Comput. Human Behav. 61, 165–175 (2016).
※3. Li, B. J. , Lwin, M. O. & Jung, Y. Wii, Myself, and Size: The Influence of Proteus Effect and Stereotype Threat on Overweight Children’s Exercise Motivation and Behavior in Exergames. Games Health J 3,40–48 (2014).
※4. Peña, J. & Kim, E. Increasing exergame physical activity through self and opponent avatar appearance. Comput. Human Behav. 41, 262–267 (2014).
※5. Peña, J. , Khan, S. & Alexopoulos, C. I Am What I See: How Avatar and Opponent Agent Body Size Affects Physical Activity Among Men Playing Exergames. J. Comput. Mediat. Commun. 21, 195–209 (2016).
※6. Yoon, G. & Vargas, P. T. Know thy avatar: the unintended effect of virtual-self representation on behavior. Psychol. Sci. 25, 1043–1045 (2014).