久野愛

久野愛

(写真:Blue Planet Studio / shutterstock

その便利さは誰のため? AI技術を実装する前に、問うべきこと

すでに日常に浸透しているAI技術。現代社会になくてはならない存在だが、礼賛する前にはいくつか注意が必要だ。『AIから読み解く社会—権力化する最新技術』の共編者・久野愛氏が解説する。

Updated by Ai Hisano on October, 13, 2023, 5:00 am JST

「どのように利用するか」よりも先に問うべきこと

クロフォードが提起するのは、AIという技術を人や社会から切り離した一つのバブルの中に存在する技術として捉えるのではなく、その技術が誰によって・誰の(利益の)ために開発・利用されているのかを明らかにすることが、今後のAIのあり方を理解し、未来志向の開発につながるということである。つまり、クロフォードが述べるように、昨今の議論でよくみられるような「AI技術をどこで・どのように利用するのか」を考えるよりも、まず問うべきは、「そもそもAIを利用すべきかどうか」(p.226)だといえるだろう。

『AIから読み解く社会』は、こうしたクロフォードの議論と共鳴するものであり、その書名の通り、AIについて考えることは現代(そして過去や未来)の社会を理解することでもあるのだというメッセージが込められている。その際、AIを私たちの外側に置き、先述したような主客二元論に基づいた見方をするのではなく、例えばピーター=ポール・フェルベークが論じた、人間とそれを取り巻く世界との「媒介者(mediator)」として技術を捉えるような、AIをめぐる存在論的・認識論的議論は、AIと私たち人間との関係を建設的に考えるヒントを与えてくれるような気もする。その第一歩として今の私たちに少なくともできることは、様々なAI技術が、いつ・なぜ・どのように・誰によって構想(時に妄想?)され、作られたのか、そしてその技術が誰に・どのような影響を与えるのかを具に検討することなのではないだろうか。そうすることで、新しい技術が開発されるたびに一喜一憂したり、ただ単に「便利さ」を礼賛したり(それが誰にとって・なぜ「便利」なのかを考えることなく)、一方で新しい技術に対して警戒や批判だけをするのではない、人とAIの関わり方が見えてくるように思う。

参考文献
AIから読み解く社会』B’AIグローバルフォーラム・板津木綿子・久野愛編(東京大学出版会 2023年)
Crawford, Kate. Atlas of AI: Power, Politics, and the Planetary Costs of Artificial Intelligence. Yale University Press, 2021.
Verbeek, Peter-Paul. What Things Do: Philosophical Reflections on Technology, Agency, and Design, translated by Robert P. Crease. Pennsylvania State University Press, 2005.