今井明子

今井明子

2020年・東京。桜が開花した後に雪が降った。

(写真:佐藤秀明

関東の雪の予報が外れやすい理由

観測技術の発展により、気象学は大きく発展を遂げた。しかしまだ予報が難しい領域がある。その一つが太平洋側の雪についてである。未だもって外れやすい日本の雪事情について、サイエンスライターの今井明子氏が解説する。

Updated by Akiko Imai on January, 26, 2022, 0:00 pm JST

世界有数の豪雪地帯、日本

何年か前、海外旅行から帰って日本の空港に到着したとき、外国人向けの日本の観光ポスターを目にしてズッコケそうになったことがある。そのポスターには、たとえば、「KYOTO」の文字と寺社仏閣の写真というように、日本の主要な都市の名前とその場所を象徴する写真が表示されていた。そのなかで、なんと「TOKYO」の背景にあったのはスキーをする人の写真だったのだ。なんかいろいろ間違ってないか。東京とスキーが結びつかないし、そもそも東京でスキーができるような大雪が降ることはまれだろう。このポスターを作ったのは日本人のはずなのに、どうしてこんなおかしな内容なのだろうか。

その後外国人と話す機会があり、「TOKYO」の奇妙な写真の謎がようやく解けた。外国人が長野や新潟などにスキーに行くには、まず東京で飛行機をおりて、そこから電車やバスなどに乗り換えるのだ。そして、日本の冬といえば大雪のイメージがあるようなのだ。それを聞いて、国内に住む人と、海外からの旅行者とでは、空間スケールのとらえ方にギャップがあることを実感したものだ。

前置きが長くなったが、結局私が何を言いたいのかというと、日本は世界でもまれにみる豪雪地帯ということである。しかも、日本は北海道を除いて温帯に位置している。温帯でこれだけの雪が降るのは非常に珍しいことなのだ。

なぜ、温帯でこれだけの雪が降るのか。それは、日本の地理的な条件が大きい。日本はユーラシア大陸の東に位置し、太平洋と面しているが、ユーラシア大陸と日本列島の間には日本海がある。この日本海が雪をもたらすのである。

一般的に、陸地は温まりやすく冷えやすい。そして海は温まりにくく冷えにくい。冬はユーラシア大陸がキンキンに冷え、シベリアあたりにマイナス数十℃にもなる非常に冷たく乾燥した空気の塊ができる。冷たい空気は重く気圧が高い。これが冬のシベリア高気圧である。その一方で、冬の海はシベリアに比べれば温かい。だから、海の上の気圧は相対的に低くなる。こうしてユーラシア大陸(西)に高気圧、太平洋(東)に低気圧が存在するようになる。これが「西高東低の冬型の気圧配置」だ。風は、気圧の高いところから低いところに向かって吹く。だから、シベリアから日本を通過し、太平洋側に抜けるような風が吹く。これが冬の季節風である。

天気図
出典:気象庁HP

シベリア高気圧は大陸の上で生まれたので、そこから吹きだす季節風は乾燥している。しかし、日本海を通るときに、海面から水蒸気を提供されて湿る。そして日本海には筋状の雲ができる。これはちょうど露天風呂の上に風が吹くと、風の通り道に湯気ができるのとよく似ている。冬の日本海での寒中水泳の映像を見るととても寒そうに思えるが、せいぜい10℃程度なので、氷点下のシベリアからの季節風にしてみれば露天風呂みたいなものなのかもしれない。

この冬の季節風は、日本列島の中心にある山々にぶつかると強制的に上昇する。そして、雲から雪が降る。これが日本海側に大雪をもたらすメカニズムである。この雪雲は積乱雲なので、日本海側では冬に雷が鳴ることもある。

さて、日本海側に雪を降らせた季節風は、再び乾燥し、山を越えて太平洋側に吹き降ろす。これが「空っ風」である。太平洋側に吹く季節風は乾燥しているので、冬の季節風が太平洋側の平野部に雪をもたらすことはあまりない。だから、冬の太平洋側は晴れることが多いのだ。