松浦晋也

松浦晋也

2002年ごろ撮影。北極にある電波受信機。

(写真:佐藤秀明

宇宙からしかみえない真実がある

宇宙からは、地球上では見えないものが見える、いや感じられるーー。宇宙空間に打ち上げられたスキャナーは未知の発見に大きな貢献を果たしてきた。宇宙からの視点が持つ力を科学ジャーナリストの松浦晋也氏が解説する。

Updated by Shinya Matsuura on February, 9, 2022, 0:00 am JST

高いところから世界を見れば

平らな地面に立つとき、私達の視線の高さは身長で決まる。背が高い者ほど遠くを見ることができる。では背の低い者はどうすればより広い視野が得られるのか——高いところに登ればいい。丘や山のような高い地形がなければどうすればいいか——脚立や梯子ややぐらなど、道具を使えばいい。

そういう道具で届かない、もっと高いところから、もっと広くを見渡すためにはどうすればいいか——。
空を飛ぶ道具を作ればいいのだ。

というわけで、飛行機械の歴史は「空から見渡す」という用途と密接に結びついている。有り体に言えば軍事目的の偵察だ。1783年にモンゴルフィエ兄弟が熱気球を発明して以来、20世紀初頭まで、気球は偵察と大砲の弾着観測のために盛んに利用された。1903年にライト兄弟が飛行機を発明すると、浮いているだけの気球は飛行機から攻撃されるようになって姿を消す。代わって偵察機が戦場の空を飛ぶようになった。

1957年10月にソ連が初の人工衛星「スプートニク1号」を打ち上げた時点で、開発の中心にいたセルゲイ・コロリョフは衛星の利用方法として偵察があることを認識していた。1961年4月に、ユーリ・ガガーリンを乗せて宇宙を飛んだボストーク宇宙船は、同時並行で無人の偵察衛星バージョンも開発されていた。この偵察衛星は「ゼニット」と命名され、改良を重ねてソ連崩壊後の1994年まで使われた。当然のごとく、同時期にアメリカも偵察衛星計画を進めていた。最初のプロトタイプである「ディスカバラー1号」は1959年2月に打ち上げられている。

ところで、偵察機が積むのはカメラだ。偵察衛星もカメラを積む。カメラは特定の被写体を撮影することが目的だ。目標にレンズを向ける、あるいはレンズの前を目標が通過するタイミングで、シャッターを切る、するとレンズの画角で切り取られた画像が得られる。

地球全体を何年もにわたって

ここで衛星というものの特質を考えてみよう。衛星の気球や航空機と全く異なるのは「飛び続ける、地球を回り続ける」ということだ。航空機は燃料が切れる前に着陸しなくてはけない。気球は気嚢の中の浮力を得るためのガスが漏出すれば降りてくるし、上がりすぎれば気嚢が周囲の気圧低下による張力に耐えきれなくなって破裂する。いずれにせよ数時間から数十日程度の時間で起きる。

もちろん衛星にも寿命はある。地球に近い高度500km以下の軌道なら、希薄な大気抵抗を受けて徐々に落下し、最後は大気圏に投入して消失する。そう簡単には落ちてこない軌道であっても、搭載機器は時間と共に劣化し、最後は故障して機能を喪失する。ただし、そこに至るまでは数年から、場合によっては10年、15年、20年はかかる。その間、衛星は機能し続ける。

ということは、衛星を使えば地球全体を延々と何年にも渡って観測し続けることができるということだ。偵察衛星のように、特定の場所の上空でシャッターを切って、その時点で何が起きているかを調べるのではない。地球全体を何年にもわたって観測し、地球という星で一体なにが起きているのかを調べ続けることができるではないか。

海を望む住宅地
スウェーデン・ストックホルムにて。2012年ごろ撮影。

このような衛星の特徴は、まず気象衛星として利用されることになった。気象もまた軍事作戦行動にとって重要な情報である。特に雲がどのように動いているかは、気象予測にとって大変重要な情報だ。広域で雲の動きを観察できるなら、それは気象予測の精度を上げることになる。なによりも、雲の動きが分かれば、軍事民生の区別なく大きな被害を人類社会にもたらす、台風の進路を予測することが可能になる。つまりそこに大きな情報の需要がある。