玉木俊明

玉木俊明

世界の紙幣たち。肖像画からは各国の歴史や主張が垣間見える。

(写真:佐藤秀明

「税逃れ」は市民に利するか

ITの発達により、市民にとっては好ましくない行為もより容易に行われるようになった。その一つが大企業等による「租税回避行為」である。数回のクリックで莫大な富が都市や国家から流出し、格差拡大を生じさせている。しかしながらタックスヘイブンを利用した租税回避行動には実に300年近い歴史があり、部分的にはそれが市民に利することもあった。租税回避の真実を経済学者の玉木俊明氏が紹介する。

Updated by Toshiaki Tamaki on March, 17, 2022, 8:50 am JST

スウェーデン東インド会社と茶

本国スウェーデンでさえ知られていない貿易会社であるスウェーデン東インド会社は、1731年に創設され、1813年に解散した。スウェーデン東インド会社の貿易とは、広州からの茶の輸入を意味し、大量の茶がスウェーデンへと輸入されたのである。

だが、スウェーデン人は、茶ではなくコーヒーを飲むことで有名である。そのスウェーデンに、国民全員が飲んでもまだまだ余るほど大量の茶が輸入された。そのため、茶の多くは再輸出されることになった。

モルディブの海
モルディブの海。観光産業が国の基盤であり、島の一つひとつにホテルがある。1995年ごろ撮影。

茶はまずオランダとオーストリア領ネーデルラント(現ベルギー)に向かった。オランダは当時のヨーロッパ最大の商業国であり、オーストリア領ネーデルラントの都市オーステンデは、1727〜31年間の短期間しか続かなかったが、アジアとの貿易に従事したオーステンデ会社の根拠地があった都市である。したがってヨーロッパ有数の貿易都市であり、おそらくスウェーデンからオーステンデへと、茶が輸出された。

その多くは、おそらくイギリスにわたった。イギリスはヨーロッパ最大の茶の消費国であったからだ。そして、イギリスへの茶は密輸であった可能性がきわめて高い。スウェーデンの茶は低級茶であり、所得が低い階層の人々が飲んだものと思われる。