佐々木隆仁

佐々木隆仁

月山の山伏たち。修行のために日本中から集まってくる。傘を差し掛けられている行者が権威者。

(写真:佐藤秀明

データ解放革命が日本を救う

データ復旧の老舗AOSテクノロジーズの代表取締役社長を務める佐々木隆仁氏は「「2025年の崖」に落ちないためのDXソリューションを考えよ」で、従来型のITシステムからDXプラットフォームの活用に舵を切ることの重要性を説いた。しかし、課題はそこにとどまらない。デジタル後進国となった日本が生き残り、復活するためには、自分たちのデータを自分たちで守れる低コストで安全なデータプラットフォームを自らの手で作り出す必要があると指摘する。

Updated by Takamasa Sasaki on April, 14, 2022, 8:50 am JST

――国内でDXは、必ずしもうまく実現できていないように感じます。その要因はどこにあると考えていますか。

佐々木氏:例えば、教育のデジタル化をしようということになると、まずデータのフォーマットを統一しようという話になります。医療分野でも、データ活用をするとなるとフォーマットの統一が話題に上ります。その考え方自体は、間違ってはいないと思います。実現できればそれで問題はないのです。しかし、データのフォーマットを変えるということは、システムを変えるということです。フォーマットを統一したデジタル化というのは、いつになったらできるのか、そこまでにいくらコストが掛かるのか、考えているでしょうか。

私は、デジタル化を進めてその先にあるDXを実現するためには、「従来と同じ考え方でシステムを構築してはダメだ」と思っています。これまでちっともデジタル化やDXが進まなかった現実を無視して、「こうあるべきだ」といくら議論しても仕方ないのです。きちんと整合性が取れたデータフォーマットにデータを格納し、RDB(リレーショナルデータベース)をちゃんと動かすということは、既存のシステムを完璧に動かす方法論としては正しいとしても、その先に私たちが求める答えはないのです。

RDBに入れる理想を追わずに「まず共有」

――データフォーマットを整えることなく、デジタル化、DX化を進めるには、どうしたら良いと考えていますか。

佐々木氏:私は、「ファイルの共有から始めましょう」と言っています。クラウドにアップロードして、安全に共有できればそれで良いのです。フォーマットの統一はしません。きちんとしたデータフォーマットがあっても、RDBに入れてシステムを作るというこれまでのIT業界のDXとの向き合い方では、DXは実現できません。いかに考え方を変えられるかが課題です。

現状のRDBに入れて完璧に動かすシステムを作る方法は簡単には変えられません。しかしこのままだと、データはシステムの中に閉じ込められますし、企業ごとにカスタマイズしたくなってSIerに要求し、柔軟性がなくなった結果としてシステムが老朽化しやすくなります。そう、これはDXに向けた答えではないのです。私たちが気づいたのは、「もっとゆるいシステムが必要だ」ということです。

――AOSでは、その「ゆるいシステム」について、どのような答えがあると考えていますか。

佐々木氏:RDBで動いているとコストが掛かります。それをAIで活用できるようにすると、さらにコストが掛かります。そこで、システムが大事なのではなく、データが大事だという発想の転換が必要になります。データの本体というのは、ファイルに格納されています。すなわち、ファイルを共有する環境さえ作れたら、ゆるいシステムが出来上がります。これは、ファイルをクラウドにバックアップすることから始めます。AOSでは「AOSIDX」と呼ばれる低コストでセキュリティを担保したクラウドバックアップ&共有サービスを提供していて、これがデータを共有する基盤として活用できます。ファイルの本体をバックアップするだけなら、新しくシステムを作る必要がありません。

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中ノ又の春祭り。住民が50人程の限界集落であるが、連綿と続いてきた祭りを絶やさないようにしている。

医療や介護のDXについて、少し考えてみましょう。介護施設の職員が入所者を病院に入院させるとき、システム連携をして病院と情報を共有しようとしたらデータフォーマットの統一やシステム改修などが発生して大変なことになります。しかし、ファイル共有ならば、介護施設と病院の間でデータフォーマットが異なっていても情報を共有できます。健康情報や認知症がどのぐらい進んでいるかなど、個人にとってのセンシティブ情報が含まれるわけですが、セキュリティを担保したファイル共有ならば、システムを連携することなくゆるやかな情報共有が可能です。

町のクリニックから病院に紹介状を渡すとき、今はほとんど紙で患者さんが自分で病院に運んでいます。そのときに医療データを渡すケースはほとんどありません。しかし、安全に共有できるシステムがあれば、その紙の紹介状を患者さんが持ち運ぶ必要もないので、クリニックから病院にデータ連携ができればDXが一歩進みます。その時、システムを連携するのではなく、クリニックと病院の間でファイル共有を可能にすれば目的は達せられるのです。

ゆるいファイル共有なら、紙の診断書以外にも健康診断のデータもフィットネスクラブの運動のデータも、介護施設や病院で活用できるようになります。医療DXの第一歩が容易に実現できるのです。完璧なシステム連携ができれば、もちろんその方が良いでしょう。しかし、完璧を目指して何もできないよりも、ファイル共有でデータ連携できたほうがずっと改革につながるはずです。完璧なシステムなどを作ろうとするからいけないのだと、発想の転換をすべきでしょう。

データをバックアップするモチベーションが不可欠

――データをバックアップするといっても、簡単には実現ができないように感じます。

佐々木氏:ここまでお話してきたように、DXの本質はすべてのデータを安くバックアップして共有することにあるといっても過言ではありません。これをすべての業界で実現できれば、日本のDXは格段に進みます。そのとき、データをフルコントロールするのではなく、各業界や現場の人がデータをその場所に入れたくなるようなモチベーションを提供することが重要です。

メールでやり取りすると、データ漏洩のリスクが高まります。デジタル庁がメール暗号化とパスワードの送信を廃止しましょうと言っても、やめる方法は示してくれません。なぜ暗号化メールとパスワードの送信がダメかというと、ハッカーにメールのパケットを取得されてしまうとファイル本体をZipで暗号化して送っても、パスワードを書いたメールも同時に傍受されてしまうので、パスワードを掛けた意味がないのです。

その上、Zipファイルは内容が見えませんから、マルウェアが含まれていても検知できません。Zipを解凍しようと実行することで、危険をばらまいていることにも気づくべきです。それではどうやってデータをやり取りするかというと、クラウドストレージにデータを格納して、厳格にIDとパスワードを管理するしかないのです。安全にデータを受け渡せるならば、データをクラウドストレージに格納したりバックアップしたりする方法が広まるでしょう。

ランサムウェアへの対策としても、フルデータをバックアップすることの意義は高いです。データがバックアップしてあれば、攻撃されてデータを暗号化されてしまったとしても事業を継続できます。

安いコストで、SaaS(Software as a Service)形式で即日導入できるサービスで、全データをクラウドにバックアップすることが、すべての答えにつながります。米国でも中国でも韓国でも、フルデータのクラウドバックアップは実現していません。日本でフルデータのバックアップを実現できれば、一気に最先端に立つことができます。ようやく政府の方々も、こうした話に聞く耳を持つようになってくださってきたと感じています。それでも動きは決して早くはなく、私たちはメディアを通じて発信していく必要性を強く意識しています。

――バックアップしたデータの活用の仕方は。

佐々木氏:例えば、製造業のデータは、クラウドにはほとんど上がっていません。これを現場でデータ収集して、デジタルツインを実現し、AIを使って分析しようとしたときに、またシステムインテグレーターが個別のソリューションを提供していったら、これまでと同じ個別最適となり、2025年の崖に落ちるシステムを再生産することになります。

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世界三大瀑布・ビクトリアフォールズ。ジンバブエとザンビアの国境で雷鳴のように滝が轟く。

日本国内を見回しただけでも、AIを使って課題解決できる技術やソリューションを持っているベンチャー企業や技術者はたくさんいます。現状の彼らは分析すべき元データを持っていないからビジネスにつながらず、投資を受けても大きな利益を生み出せないのです。必要なデータがこうしたAI開発企業に渡れば、そこから先の分析は彼らが実現していきます。クラウドストレージにフルデータをバックアップして、共有プラットフォームとして活用できれば、AI開発企業にデータが渡って有意義な分析が可能になります。もちろん、当事者のOKがあればという前提は必要ですが。

金融でも製造でも、データがあればAI分析で価値を提供できる企業はたくさんあります。データ収集とデータ加工を自分たちでやっているから利益がでないだけで、共有プラットフォーム側でその部分を担当してあげれば、DXが進むようになります。そのようにしてデータを活用してAI分析をどんどん進められれば、日本からAI革命が起こるでしょう。

RDBでフルコントロールするデータプラットフォームを新たに構築するのではなく、ゆるやかにファイル共有できるデータプラットフォームさえあればいいのです。AOSは、ベンチャー企業を運営しながら、競争力のあるプラットフォームを作るために多くの資金を投入してきました。今、データを安全に低コストに預けられるプラットフォームの基盤として、Neutrix Cloud Japanのクラウドストレージとの連携を進めています。フルデータをクラウドストレージに上げるための基盤が整いつつあります。

デジタル後進国を認めてデータ解放革命を

――国内のDXの取り組みやデータの取り扱いについて、発想の転換や変革が必要というメッセージを受け取りました。そもそも、なぜDXを実現し、変革をしていく必要があるのでしょうか。

佐々木氏:30年間日本の生産性が上がらなかったという問題があるからです。ナショナルセキュリティの問題もあります。従来のやり方でSI会社にITシステムを丸投げしてもいいのか?データプラットフォームとして、持続可能かどうかわからない企業にデータを預けていいのか、外資系企業にデータを預けることの信頼性をどう担保するのか、色々と考え直さないといけないでしょう。

日本資本でないIT企業やサービス事業者にデータを集めたとき、本当に国外にデータが流れないと保証できるでしょうか。国家が主体となってデータを取りに来ている中で、日本のデータの安全保障は誰が守ってくれるのかを考えるべきです。国が守ってくれないと、どんどん海外に取られていくわけです。日本を守るためのデータプラットフォームが必要なのです。

――様々な分析の素になるデータを預ける環境を、自分たちで作る必要があるのですね。

佐々木氏:いわゆるGAFAのビジネスは、データ囲い込みそのもので、独り占めすることで利益を生み出しています。しかし、誰かが独り占めして集中して稼ぐ富よりも、皆がデータで稼ぐ富の総量の方が多くなります。だからこそデータ解放革命が必要であり、ネクストGAFAが必要になります。自分のデータ、マイデータは自分のものだからです。

日本は、ソフトウェアの産業を守ってきませんでした。TRONプロジェクト時代から頑張ってきても、どんどん海外にやられてしまった。今ではグローバルに使われている日本発のソフトはほとんどありません。DXの崖を乗り越えるには、世界的に競争力があるソフトやサービスを作る必要があり、既存の国内ITベンダーには対応は難しそうです。しかし逆に見れば、日本にはソフトの既得権益者が少なく、柔軟性があるとも言えます。

現在、日本はデジタル後進国です。これを自覚し、認めて、どうやって復興するかを考える時期です。明治維新では、鎖国の江戸時代末期に海外を見てきた人たちが、既存の社会構造ではダメだと考えて一気に近代化の改革を行いました。デジタル後進国となった日本も、明治維新を思い出して、遅れていることを自覚し、進んでいる国から学び、デジタル改革を一気に進めなければなりません。既得権益者が少ない日本だからこそ、データ解放革命につながる変革が起こる可能性があると考えています。