佐々木賢一

佐々木賢一

カリフォルニアで撮影。自動車は必需品。土埃をあげながら幹線道路に吸い込まれていく。

(写真:佐藤秀明

速度を変えれば変化がわかる

DXは、それまで人間が認識していなかった事柄を「見える化」し、新たな気付きを与えてくれることがある。その一つの手法がタイムラプスによる経過観察だ。トライポッドワークス株式会社はイメージソリューション事業のなかで、映像を活用した製造や建設現場での安全推進を補助している。代表取締役の佐々木賢一氏に実情を聞いた。

Updated by Kenichi Sasaki on April, 21, 2022, 0:00 am JST

――企業のIT活用を支援するトライポッドワークスでは、どのようなビジネスを展開していますか。いずれもデータの活用に関連が深いと思います。

佐々木氏:トライポッドワークスの事業は3つの柱から成り立っています。1つ目が、オフィスソリューション事業です。オンラインストレージや電子メールを中心としたもので、2005年に会社を設立したときからの“祖業”と言えるものです。データを蓄積したり、企業間のデータのやり取りを安全に行ったりするソリューションですから、膨大なデータを取り扱います。

これに加えて新規事業として、IoTソリューションイメージソリューションの2つの事業を推進しています。IoTソリューションは、自動車関連分野におけるIoTサービスの開発やクラウドサービスの提供を中心に、ビジネスを拡大。イメージソリューションでは、産業用の映像解析技術の開発、映像クラウドサービスの提供、プロモーション映像の提供などが主軸です。これらがまたデータを多く溜めるソリューションで、オフィスソリューション事業とはケタ外れのデータを取り扱うことになります。

IoTと映像解析のデータのハンドリングの進展

――様々なデータを取り扱う中で、領域ごとに感じている違いはありますか。

佐々木氏:長年提供しているオフィスソリューションでは、パソコンなどの端末を人間が操作しています。人間の数しか端末がないので、生み出されるデータも人間が作れる範囲にとどまります。ところが、IoTになると、端末数が膨大になります。トライポッドワークスがIoT事業の主力とする自動車分野では、1台の自動車の中に可動部分がたくさんあります。それらをIoT化してデータを生み出すようにすると、データ総量も多くなります。1トランザクション当たりのデータ量は少なくても、自動車1台、そして国内を走る自動車全体とすると、非常にデータ量が多くなるわけです。

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マルケサス諸島の家族。マルケサスはタヒチから3、4時間ほどで、画家ゴーギャンが晩年を過ごした島がある。ポリネシア人の分岐点といわれ、ハワイとイースターの文化がこのマルケサスに集まっている。

イメージソリューション事業では、さらにデータが増えます。映像はデータ量が多く、IoTと違って1トランザクション当たりのデータ量が莫大になります。いずれにしても、今までの情報システムになかったようなデータが急速に増加し、トライポッドワークスではそれを蓄える仕組みを整えてきました。

各論になりますが、オフィスソリューションのインフラとなるクラウド環境は、メガクラウドからNeutrix Cloud Japanのサービスに移行したところです。費用の問題、今後のニーズへの対応などを考えた結果です。データが膨大なイメージソリューションのデータも、Neutrix Cloudをクラウドとして使っています。IoT事業では異なるクラウドを利用して、適材適所を実現しています。

――データを蓄積した後は、どのような活用の仕方がありますか。

佐々木氏:蓄積するだけでなく、利用するための仕組みも必要です。蓄えるだけでは、データは何の価値も生み出しません。活用や分析をどうするかが、大きな問題です。

特に映像は、録り溜めたとしても、分析が難しいものでした。汎用的な処理に対応するCPUには荷が重すぎるデータだからです。画像処理に特化したGPUがその後に発達したことで、ようやくITの世界で映像を本格的に解析できるようになってきました。

いま考えなければならないのは、映像のデータをクラウドに格納して、なおかつクラウドでGPUによって解析する環境の整備です。従来のクラウド環境だと、データ量やGPUの計算量がコストに跳ね返って現実的ではありません。データを活用するためのインフラとして、大量のデータを長期間保存してもコスト的に見合うクラウドストレージが重要ですし、同時にクラウドには高いコンピューティングパワーを提供するGPUをリーズナブルに使える環境が必要になると考えています。

データは「見える化」で価値を生み出す

――イメージソリューション事業では、映像データの分析などによる活用を進めています。映像データの活用というと高度でAIなどが必要になる印象がありますが、実際にどのようにビジネスに役立てられていますか。

佐々木氏:少し具体例を説明しましょう。映像データの活用は、決して難しいことでも、高度な技術が不可欠なものでもないことがわかってもらえるでしょう。

土木や建設の工事現場のケースでは、現場の映像を解析して工程管理、安全管理、技術やノウハウの蓄積に使っています。そう言うと、すごいAIが必要だと思われるかもしれませんが、最も手軽な方法はタイムラプス化です。例えば、8時間の工事の映像を30秒の動画にしたり、1年間の工事工程を1分にまとめたりするわけです。これには、工程をわかりやすくする効果があります。

人間には、ゆっくりした変化を認識することが難しい性質があります。昨日と今日、何が変わっているのかは、現場にいてもなかなか把握しにくいのです。1日の工程、1カ月の工程を、ずっと見続けることも難しいです。ところが、タイムラプス化すると、その変化が短時間に凝縮されます。人間は、短時間の変化で動きとして強調されれば多くの気づきを得ることができます。タイプラプス化した映像を見ることで分析しやすくなるのです。

――具体的には、どのように使うのでしょう。

佐々木氏:ある建設会社では、タイムラプス化した前日の工事の映像を朝礼で現場の作業員と一緒に確認しています。現場の作業員は、「そこにいた」わけですが、状況を俯瞰的に見ることはできません。タイムラプス化した映像を皆で確認することで、改善点が見えてきます。資材の置き場がここだと危険だからこちらに移動しよう、今日の作業ではここは立入禁止にしようといった改善が進みます。実際、タイムラプス化した映像を見ることで、現場の発話量がとても増えるそうです。共通認識が得られるとディスカッションが始まり、改善につながります。ただ時間を縮めただけの映像でも、1日の作業を「見える化」できるのです。

その上で、高度なITを採用することの意味が出てきます。工事現場は複雑で、危険が内在しています。映像データをAIで解析して、事前に危険を察知するような仕組みを作れます。過去の映像を分析する中で、過去のインシデントから今後の改善につなげられます。

――タイムラプス化のような比較的簡単な手法でも効果が得られて、その上でAI活用などを考えれば良いのですね。

佐々木氏:一時期、工事現場での杭打ち偽装が社会問題になりました。施工者側に多かれ少なかれ悪意があった場合には、本当に杭を打っているのかのエビデンスが得られません。そこでも映像が役に立ちます。杭打ちの状況を映像データとして記録し、分析します。ここでは、データで残すだけでなく、杭打ちをするパイルドライバーと呼ぶ機器の動きをAIで認識します。杭がどれだけ打ち込まれたかがグラフとして示され、視覚的にも数値的にも理解がしやすくなります。杭打ちのケースでは、きちんと埋め込まれるとグラフの波形がW型になることがわかり、エビデンスを得ることにつながりました。

映像データの活用といっても、いろいろな段階があることがわかるでしょう。映像そのものをわかりやすくするのが1つで、タイムラプス化のようにゆっくりの変化を早くして動きを強調する手法です。さらに、色をつける、数値化する、グラフにするといったことにより、元の映像データから異なる情報に変換することで人間が認知しやすくなるのです。

生データを人間にわかる情報に変える

――映像データの活用というと、遠隔監視なども取り上げられることが多いです。

佐々木氏:VR(仮想現実)の活用や、仮想世界をコミュニケーションなどの場にするメタバースにも高い関心を持っています。フィールド分野にVRなどの映像を活用する用途は、かなり高いニーズがあります。最近では、国土交通省が建設現場の遠隔臨場の試行を進めています。公共工事の建設現場で「段階確認」、「材料確認」と「立会」を必要とする作業に遠隔臨場を適用して、受発注者の作業効率化を図るというものです。現場監督ができる人材が少なくなり、現状は1人が複数の現場を掛け持ちしています。コロナ禍で接触を減らす必要もあり、遠隔臨場が現場で求められるようになっているのです。

トライポッドワークスでは、360度カメラを現場において、VRで本社から見渡せるようにするシステムを提供しています。VRゴーグルなどを使って、周囲の見たいところを確認できるシステムです。複数の現場の確認も本社などから映像を切り替えるだけで行えます。

――思ったよりも単純な仕組みでVRの業務活用ができそうですね。

佐々木氏:無人化、自動化が進むと別の話になるでしょう。でも、今は人間が管理しています。いかに管理している人間に対して、わかりやすい情報をインプットするかという視点が大切です。

これまでは、映像の活用といっても監視カメラを設置して、記録した映像をインシデントが発生したときに見るという使い方が現実的でした。ITの世界で映像を扱えなかったからです。ネットワークが映像のデータ量に対応できず、リアルタイムのデジタル映像処理をするにもGPU環境がなくて、コンピューティングパワーが不足していました。こうした環境の変化により、ITで映像を扱えるようになりました。過去のデータを処理することも、リアルタイムに処理することもできるようになりました。そして、未来を予見することもできるようになっています。ITに映像が入ってきたことで、アクシデントが起きる予兆もわかるのです。

しかし、実際には現状は「ツールが便利になった」段階です。業務も人も変わっていません。あくまでも人間が管理しているので、映像データを元にしながら「人間がわかりやすい情報」を提供することが重要です。

人間は、情報の入力源として、視覚情報に6割近くを頼っていると言います。すなわち「見たものしか信じない」のです。火災報知器が鳴り響いても逃げなかった人が、煙を見たらすぐに逃げます。幽霊だってUFOだって、見た人は信じるではないですか。人間が管理している以上、管理者や現場の作業者にいかにわかりやすく映像情報をインプットできるかが、映像データ活用のポイントだと思います。それがより良い管理につながります。

IoTも同じです。生データを羅列されても、人間には理解を超えてしまいます。人間はタイムラプスやトラッキングができないのです。データを保管して、人間が理解できる形に「見える化」してあげると、データが情報として価値を生み出すようになるのです。生データから、人間が分かる形に変換することが、ITの見える化を通して実現するDX(デジタルトランスフォーメーション)の1つの本質だと思います。

(聞き手・文:岩元直久)