高水裕一

高水裕一

カナダのユーコンでは、真夜中になるとオーロラが日常的に見える。時折、爆発するような虹色のオーロラが現れることがある。

(写真:佐藤秀明

機械に頼った研究では「いったい何がわかったのか」がどんどん不明瞭になってくる

今や人の生活に当たり前に溶け込んでいるコンピュータ。それはどのように誕生し、今人類をどこへ連れていこうとしているのか。コンピュータが自ら学ぶ機械学習は社会に何をもたらすのだろう。スティーブン・ホーキング氏に師事した物理学者が考察する。

Updated by Yuichi Takamizu on August, 25, 2022, 5:00 am JST

紀元前3000年に使われていたパーソナルコンピュータ

古代においては、暦、あるいは日食を読むための計算が重要だった。ストーンヘンジが巨大なスーパーコンピュータだとすると、個人使用のPC(パーソナルコンピュータ)にあたるものとしては、紀元前3000年のメソポタミアで使われていた「砂そろばん」がある。
他にも、各文明それぞれに個人が計算するためのそろばん(アバカスともいう)が存在する。中国では紐の結び目を用いたもの、エジプトでは石そろばんといったものだ。これだけ地理的に離れた独自の文明であるにも関わらず、計算するためのそろばんの仕組みをそれぞれが共通して発明していることには驚く。

さらに時代が進み、紀元後12〜13世紀になると「対数(logarithm)」という概念が生まれる。文系の方には馴染みが薄いかもしれないが、桁が多い数を扱う場合に大変便利な形式だ。たとえば、100は3と表す(対数の底を10で取る場合)。1,000は4となり、10,000は5となる。もう規則はお分かりだろう。要は、ゼロの数の表記に対応する。

対数を計算するための特殊な計算機のことを「ネイピアの骨」という。ネイピアというのは、対数や指数を生み出した数学者ジョン・ネイピアのことだ。彼の名はネイピア数、数学記号でいえばeの形でも残っている。 
ネイピアの骨は計算尺とも呼ばれ、目盛りを合わせると、うまく対数の数値結果が読めるように工夫されている。このように、足し算、引き算、掛け算、割り算という四則演算ができるそろばんに加え、ついに上位の数学概念である冪乗(べきじょう)や対数などを計算できる「機械」が開発されていく。

最上位の演算は、掛け算である

日常ではあまり意識することはないと思うが、実は四則演算は重要度が異なる。足し算があれば引き算は補助的な存在となり、本質的には不要だ。同様に、掛け算があれば割り算も本質的にはいらない。詳細は難解なので省くが、このような差が生じるのは、逆数として定義できてしまうからである。

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道端で電話部品を売る商人。スリランカのコロンボにて。1900年代撮影。

では、足し算と掛け算を比べたらどうか。この場合、圧倒的に掛け算が重要になる。ここでネイピアが開発した対数が生きてくる。たとえば2*3の対数をとると、log2 +log3になる。これは少し見方を変えると、log2という新しい数とlog3という新しい数の足し算に変換できたことを意味する。つまり、対数という技さえ使えば、どちらか一方のみが本質的な演算となる。さらに、「素因数分解」という掛け算世界の絶対法則があるために、掛け算は足し算より重要視される。掛け算は私たちの生活を支えていると言ってもいい。たとえば、私たちが普段の買い物で何気なくクレジットカードを使うとき、カード番号などの重要データを転送するときの暗号化には、この素因数分解が用いられている。対数や掛け算優位といった恩恵を、実は皆が享受している。

現代のコンピュータの原点は戦時中に生まれた

人類は過去に地球規模の陣地争いを激化させ、2度の世界大戦を引き起こした。同じホモサピエンスであり現存一種しかいないのに、文明発生から5000年経ってなお、人類は戦争という手段を選んでしまう。
現在も21世紀であるにも関わらず、誰もが予想しない形でロシアとウクライナという2国が争っている。その背景には、世界全体の国々をも巻き込んだ、半ば水面下の第三次世界大戦が勃発しているように感じる。そんな世界大戦も、こと科学の進歩・発展の観点からいうと本格的な計算機誕生に大きく貢献しているのだから、なんとも歯がゆい思いがする。

具体例として、英国ケンブリッジ大学のアラン・チューリングに触れたい。彼は、イギリス軍に秘密裏に招集されたドイツ軍の暗号解読チームに参加する。当時、ドイツ軍の暗号は鉄壁だった。1日以内に解読しないと、次の日には暗号そのものが変化してしまうという難敵だったのである。そこで英国中から優秀な数学者たちが集められ、全員が解読作業に全力で取り組んだ。他の数学者たちが紙とペンで必死ににらめっこをするなか、チューリングは歯車のような回転する円盤に無数の配線をほどこし、それらを連結して暗号に挑んだ。あまりに斬新すぎる発想に、チューリングは周りから半ば変人扱いをされてしまう。それでも、一人の数学者がこれはすごいシステムであると気がつく。やがて、同僚すべてが取り憑かれたように研究に没頭した。莫大な国家予算が注ぎ込まれたが、それでドイツ軍による空爆地点が分かるなら、人命には代え難いといえよう。こうして、驚くほどの短期間で高性能な計算機がこの世に生み出された。

国家レベルの危機的状況が科学を発展させていく

具体例をもう1つ紹介しよう。「マンハッタン計画」である。我が国日本は、第二次世界大戦時に核兵器で攻撃を受け、世界で唯一の被爆国となった。当時、終戦の1年ほど前のこと、アメリカでは国中から極めて優秀な学者、特に物理学者たちを集めて、アインシュタインの相対論を原理とした兵器開発に取り組んでいた。これがマンハッタン計画といわれるものだ。メンバーは錚々たる人物ばかりで、のちにノーベル物理学賞を受賞したファインマンや、原爆の父と呼ばれたオッペンハイマー、さらにIQが推定300もあるといわれたノイマンまでもが顔をそろえた。中でも、ノイマンは別格に頭がよく、特に直観像記憶(映像記憶)に長けていたようだ。さらに暗算能力はコンピュータ並みだったという。そんな彼もまたコンピュータの開発に関わっており、コンピュータが完成した直後「私の次に計算の早いものが生まれた」と言ってのけたというエピソードまで伝わっている。あだ名はなんと「悪魔の頭脳」。それほどまでにノイマンの計算能力は異次元だったようだ。

私たちが享受している情報社会の根幹をなすインターネットも、元を辿れば戦争の軍事利用が最初だった。まず研究者が利用するツールとして発展し、コンピュータが普及していくのに伴ってコンピュータ同士をつなぐネットワークシステムが出来上がっていき、今に至る。この場合は、戦争で人命を救うといった切迫した背景から発達したわけではないが、人類の科学進歩の裏には、国家レベルの危機的状況が関係している場合が少なくない。

地球規模の危機を前にして世界中の科学者が一丸となれば、急ピッチで科学は発達するはず

前回の記事で、古代文明を推し進めたシュメール人の正体は宇宙人だという説があるという話をした。人類の歴史において急激な進歩が確認されるとき、宇宙人や未来人の存在が持ち出されることがある。

私が上梓した本に『ウルトラマンと学ぶ宇宙と生命体』(講談社 2022年)がある。円谷プロダクションの協力のもと、ウルトラマンや怪獣、宇宙人たちが講師役として登場する化学読本だ。どんな方でも楽しめる内容だが、科学について高度なレベルに触れている。
ウルトラマンは日本が50年以上に渡って世界に発信し続けている宇宙人像そのものであり、宇宙の常識や宇宙人について語るにはこれ以上ないキャラクターであった。執筆中は、ロシアによるウクライナ侵攻が起こるような世界情勢はまったく想定していなかった。出版が近づく中で、私は書いていた一文に想いを込めた。それは、ある宇宙人による「どんなときも対話こそが大事だね」というセリフである。

書籍の出版と同時期に公開となった映画「シン・ウルトラマン」が大ヒットしている。私もすっかり魅了され、4回鑑賞した。さて、映画にはメフィラス星人という興味深いエイリアンが登場する。彼は人類に高度な科学技術を与え、紳士的に地球を支配下に置こうとする。ウルトラマンとメフィラス星人が地球の未来や管理について議論を交わすシーンには考えさせられるものがあった。
また、劇中では科学者の男性が、人類を救うためにウルトラマンから託された科学論文を読み、目頭を熱くするシーンがある。発奮した彼は世界中の科学者たちが力を合わせることを発案し、その結果、あくまで映画内の話ではあるが、人類の科学は大きく前進した。
地球規模の危機を前にして世界中の科学者が一丸となれば、急ピッチで科学は発達するはずだ。しかし、実際には映画のようには進まない。私も死にものぐるいで地球の真の平和のために、日々全力で自分のできることをやっているつもりだが、なかなか現実は厳しい。
だが、ウルトラマンは地球人の何度でも前を向き、上を見る姿に興味を持っていた。独自の視座を持つ宇宙人や奮闘する地球人の姿に、大人たちこそ学ぶことが多い作品だと感じた。

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月面探査機アポロ11号のコックピット。1969年撮影。

2022年6月に、NASAが未確認飛行物体・通称UFOなどの現象を調査する研究チームを編成したというニュースがあった。今現在、UFOの存在は宇宙業界を賑わせており、ホットなテーマだといえるだろう。ただ、UFOに宇宙人が乗っている可能性はおそらく低いと考える。なぜなら、惑星を探査するときは無人であることが理にかなっているためだ。もし私たちが見知らぬ惑星を調べるとしたら、いきなり人命を賭すだろうか?まずはドローンのような無人機を使うだろう。また、UFOの使用者は宇宙人ではなく、地球の未来から来た未来人という説もある。タイムマシンのような過去への介入に近い行為というわけだ。その場合でも乗組員はおらず、無人ドローンを使って映像や情報だけを採取して未来へと送るのではないかと思う。

いずれにしても、急発進および急加速できる技術がある人工物があることは確かであり、そう見える原因が何かを研究することには意義がある。もし今の人類の技術では説明できない現象なのであれば、宇宙人や未来人の存在も視野に入れることになるだろう。彼らが何者であるにしても、見せて恥ずかしくない文明であり続けたい。

機械に頼った研究は「何がわかったのか」を不明瞭にする

最後に、身近な未来における私たち研究者の計算機との向き合い方について述べておきたい。すでに多くの学術的分野の研究において、機械を用いた学習プログラムがツールとして活用されている。機械学習と呼ばれるこの手法は、これまでの天文学の研究そのものを大きく変えるインパクトを持っている。たとえば、宇宙全体を探査して惑星を見つけたり、無数の銀河の統計的情報を得たりといった大規模な天文学では、もう人の目だけでデータを判断するのは無理があるレベルにまで来ている。それほど観測の技術は日々向上しており、機械による補助的作業の必要性は増すばかりだ。

しかし一方で、機械に頼った研究では、肝心の知りたい法則についての情報として「いったい何がわかったのか」がどんどん不明瞭になってくるという問題を孕んでいる。
たとえば、銀河は非常に複雑なシステムであり、電気の力や重力、星々のほか、ダークマターと呼ばれる謎の物質まで、あらゆる想定の元に計算をする。このような自由に動かせる数値のことを、物理の世界では「パラメータ」と呼ぶ。
問題なのは、複雑なシステムの計算では、どうしても自由となるパラメータが無数に存在してしまうということだ。仮にいくつかを調整することで、何らかの銀河の光や観測事実を導いたとしても、あまりに多くのパラメータがあると、いったいどの効果が本当に効いているのか不明瞭となる。つまり、研究者が一体どんなシンプルな法則を得たいのかという想定なしにただ計算しても、意味がないのである。スーパーコンピュータの発展もあり、これまで以上に人類は詳細で大規模な計算ができるようになったといえる。しかし、その計算能力を一体どのように使うのか、それこそが真剣に考えていかねばならない人類の役割なのだ。

機械はあくまで言われたように計算をするが、その計算結果から法則を導き出すのは、また別の能力だ。情報化社会の現代、世の中にさまざまなデータが溢れているが、一体それを人類の未来のためにどのように活用すべきなのか、そういった「想像」や「創造」をすることこそ、私たち現代人皆に課せられたテーマなのかもしれない。
機械と共に、計算する能力をうまく生かして、人類の新たな未来のビジョンを想像し、自らの力で創造していくことが重要なのである。

参考文献
ウルトラマンと学ぶ宇宙と生命体』高水裕一(講談社 2022年)

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