饗庭伸

饗庭伸

現地においてQRコードを読み取ってCGを視聴している様子。(写真:饗庭伸)

ピカピカの建築物をつくらなくても、データでまちに生まれる「よい計画」

前回、饗庭伸氏は郊外の土地を生かすために大量のデータを基にしたPLATEAUを用いて市民とともにワークショップを進めてきたことを紹介した。このことから明らかになったのは、DXはまちづくりにおいてプロセスは変えねど、その質に影響していくということである。

Updated by Shin Aiba on April, 12, 2023, 5:00 am JST

MR技術を使ったからといって計画のプロセスは変わらないが……

前回、郊外の土地を生かすために市民とともにワークショップを進めてきたことを紹介した。

改めて、4つのステップを振り返ってみよう。最初のステップは「導入」、2番目のステップは「敷地調査と課題の検討」、3番目のステップは「整備方針の検討」、4番目のステップは「空間イメージの検討」である。3D都市モデルやMR技術を使ったからといって、この4段階は特段に新しいものではなく、お互いをよく知らない人が集まり、コミュニケーションを重ねながら、限られた時間の中で結論を見出そうとするときの標準的な計画のプロセスである。

しかし、これまでの方法と大きく異なるのは、そこに流し込まれ、参加者によって加工され、循環していく「情報の質と量」である。紙に印刷された図面よりも、3D都市モデルのほうが、はるかに質の高い、多くの情報を直感的に伝えることができる。そして、100枚の紙に印刷された地図を使うことも、50種類の建物模型を使うことも、現実的には難しい。通常のワークショップで使う地図は多くても5枚程度であるし、模型も3種類程度しか準備しない。3D都市モデルデータはそれよりは格段に多くの情報を扱うことを可能にし、大量の情報がワークショップで設計された4つのステップに流し込まれ、参加者からの情報も引き出され、それらが参加者の手によって加工されて、空間のイメージが作り出されたのである。

有名な建築家がピカピカの建築物をつくらなくても、データから「よい計画」はできる

ではこれらが「まちづくりのDX」にどうつながっていくのかを考えていこう。まちづくりのキモは、まずは「よい計画」がつくられること、そしてそれを動かす「よい人のつながり」がつくられること、そして、特に公共事業の場合、それが意思決定の権者である市長や議会が納得する「よいプロセス」でつくられていることにある。

前回述べた通り、このプロジェクトは「ほしいものが、ほしいわ。」という状況にあったが、4つのステップを経て大量の情報が組み合わされ、このプロジェクトでやってみたいことの幅が大きく広がり、計画の内容は充実化した。八王子市のウェブサイトでは、「北野下水処理場・清掃工場跡地活用基本構想(素案)」が公開されている。

重要なことは、建築家が全能のアーキテクトよろしく、素晴らしい、ピカピカとした提案をつくったわけではなく、すでに公開されているデータや、市民の問題意識を混ぜ合わせること、いわば「ありあわせの素材」を集め、それを料理する環境をデジタルの力を借りてつくることで、計画が充実化していったことである。データはどの都市でも使うことができるものばかりであるし、市民がいない都市などない。どの都市にもある素材を使うだけで、よい計画をつくることはできるのである。