森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

長時間、一人で、偶発的に。高く評価されるアートの作り方

ときに不合理な働きをする人の心を蓄積された研究結果から読み解きます。今回は、専門家の目をも眩ませる、高く評価されるアートの作り方を紹介します。

Updated by Yuko Morimoto on October, 3, 2023, 5:00 am JST

プロの批評家ですら、努力の大きさをアートの評価に組み込む

クルーガー氏は研究の中で、参加者に詩や絵画を見せました。現代詩人のマイケル・ヴァン・ワレヘンの書いた詩を、完成までに4時間かかったという触れ込みで読んだ参加者は、18時間かかってできたのだと知らされた参加者に比べ、詩の価値を低く評価していました。金額面でも同様に、4時間でできた場合には50ドルでポエム誌に買い取られる価値があるとみなしたのに対し、18時間かけた場合には95ドルの価値があるとみなしていたのです。

これは絵画の評価でも同じでした。4時間で描かれた絵として示されたときには、きっとオークションで1,000ドルで売れるだろうと評価された絵が、26時間かけた場合には1,500ドルで売れると予測されるようになりました。しかも、面白いことに、この「努力=価値」現象は、専門的な教育を受けているはずの、美術学部の大学生、大学院生でも生じたのです。

クルーガー氏は論文の中で、現代美術家であるジャクソンポロック(1912-1956)の作品が、大雑把にまとめると「自分にも簡単に描けそうだ」という理由で批判されたのに対し、擁護者が「いやいや、彼の作品は単に絵の具を垂らしただけに見えるけど、実はゆっくり慎重に労力をかけて、想像よりずっと長い時間を費やして描かれているんだ」という観点から反論していたことを指摘しています。

素人考えですが、時間がかかったかどうかは、アートの芸術性そのものには影響しないはずです。長時間をかけて作られた駄作だってたくさんあるでしょう。しかし、美術学部の学生や院生も、さらにはプロの批評家ですら、努力の大きさをアートの芸術性評価に組み込んでいる(いた)のです。サグラダファミリアの価値を建築時間の長さから判断する素人がいても仕方がないですよね。