森本 裕子

森本 裕子

(写真:Martyshova Maria / shutterstock

長時間、一人で、偶発的に。高く評価されるアートの作り方

ときに不合理な働きをする人の心を蓄積された研究結果から読み解きます。今回は、専門家の目をも眩ませる、高く評価されるアートの作り方を紹介します。

Updated by Yuko Morimoto on October, 3, 2023, 5:00 am JST

アーティストにはエキセントリックであってほしい

最後にもう一つ、アートの価値を上げる方法をご紹介しましょう。それは、作品を作ったアーティストがエキセントリックであること。たとえば、ゴッホが自らの耳を切り落としたとされているというエピソードを聞かされただけで、ゴッホの描いた「ひまわり」に対する評価が高くなるそうです※4。

これは有名なアーティストに限らず、架空のアーティストでも同様で、そのアーティストが普通の服を着ているよりも、奇抜な服装をしている方が、制作したアートの評価が上がるというのです。たしかに、アーティストは奇抜な服を着ている気がしますが、あれにはそんな効果があったのですね。

ただし、あえてエキセントリックにしていると思われると効果は失われてしまいます。研究の中で、レディ・ガガがエキセントリックな服装をしている写真を見た参加者は、レディ・ガガの音楽も、彼女の音楽的スキルも高く評価していました。ここまでは、だいたい上で述べた結果と同じです。ところが、「音楽評論家の中には、レディ・ガガの見た目やイメージは、現代のポップミュージックの中でも最も激しくマーケティングされ、戦略的に考え抜かれたもののひとつだと言う人もいる」と聞かされると、この効果は消えてしまいました。

エキセントリックであってほしい。でも、マーケティングのためではなく、純粋な心から変な服を着ていてほしい。アーティストは大変です。しかしどうなんでしょう。世界がエキセントリックなアーティストばかりになったとしたら、「実は会社員として真面目な服装で働きながらアート活動も行っています」という方が奇抜に思えてきたりもするのでしょうか。今後の研究が楽しみです。

参考文献
※1. Kruger, J. , Wirtz, D. , Van Boven, L. & Altermatt, T. W. The effort heuristic. J. Exp. Soc. Psychol. 40, 91–98 (2004).
※2. Smith, R. K. & Newman, G. E. When multiple creators are worse than one: The bias toward single authors in the evaluation of art. Psychology of Aesthetics, Creativity、 and the Arts 8, 303–310 (2014).
※3. Fulmer, A. G. & Reich, T. Unintentional Inception: When a Premium Is Offered to Unintentional Creations. Pers. Soc. Psychol. Bull. 49, 152–164 (2023).
※4. Van Tilburg, W. A. P. & Igou, E. R. From Van Gogh to Lady Gaga: Artist eccentricity increases perceived artistic skill and art appreciation. Eur. J. Soc. Psychol. 44, 93–103 (2014).