今井明子

今井明子

オーストラリアの都市アリススプリングスにて。アボリジニが大勢住んでおり、牧場主の息子が牛を追っていた。1970年代に撮影。

(写真:佐藤秀明

「北風と太陽」にみる気温のしくみ

とにかく気象とは人が思っている以上に複雑である。こと気温についてはそれを決定づける要因が非常に多い。日照時間と気温はなぜ比例関係にないのか、なぜ冷たい風と温かい風があるのか……。日頃当たり前に接しているこの現象を改めて知ることで、私たちが生きている世界の面白さを味わおう。

Updated by Akiko Imai on March, 28, 2022, 8:50 am JST

なぜ北風は寒いのか

では、なぜ北風が寒いのか(もちろん、ここでいう「北」は北半球における北のことである)。それは、先ほど説明した太陽から受け取るエネルギーと地球から放出されるエネルギーの収支でやはり説明できる。

実は、太陽高度が高く、太陽から最もエネルギーを受け取れるのが赤道だ。そして、緯度が高くなるほど太陽高度が低くなっていくうえ、冬には日が短くなる。極地に至っては冬はまったく太陽が昇らない極夜となる。だから、緯度が高くなるほど太陽から得られるエネルギー量は少なくなる。しかし、地球から放出されるエネルギーは、赤道であろうと極地であろうと同じだ。だから、「赤道は太陽エネルギー>地球から放出されるエネルギー」となるので暑くなり、極地は「太陽からのエネルギー<地球から放出されるエネルギー」となるので寒くなるのだ。

しかし、そのような状態のままであれば、赤道は年々気温が高くなっていく一方だし、極地は低くなっていく一方のはずだ。そうならないのは、大気や海が対流することで、熱がなるべくまんべんなくいきわたるようになっているからなのだ。その対流がさまざまな天気を生み出しているのである。

キリマンジャロの頂上
キリマンジャロの頂上。世界で最も高い峰は雪と岩で覆われている。

日本付近は、いわゆる「低気圧」と呼ばれる温帯低気圧がたびたび通過する。この温帯低気圧は、赤道からの暑い空気(暖気)と、極地からの冷たい空気(寒気)が出会うことで発生し、寒気と暖気の境目には前線ができる。北半球では低気圧が近づいて温暖前線が通過すれば南寄りの風が吹いて気温が上がり、寒冷前線が通過すれば北寄りの風が吹いて気温が下がる。つまり、「北風」は北極からの空気が低緯度にまで移動するから寒いのである。これを「移流」という。

ちなみに、気温の予測をする計算式のひとつにも、この移流が考慮されている。たとえば、A地点から〇km離れたB地点に〇℃の空気の塊があり、そこから風速〇mの風が吹いていたら、〇時後にA地点の気温は〇℃になるのか、という計算式である。