実は必要不可欠な温室効果ガス
さて、先ほど放射冷却の話をしたときに、「晴れた日の朝は」と前置きした。実は、曇りの日の朝は、さほど冷え込まない。これはなぜかというと、雲が布団のような役割をするからである。布団をかけずに寝ていると、体温が下がる一方で寒くなるが、布団をかけるとヌクヌクと暖かい。雲は、地面から放出されたエネルギーを吸収し、再び地面に向かって放出するため、地表付近が温まるのである。ちなみに、昼間に曇っていると肌寒いのは、雲が太陽からのエネルギーを宇宙に跳ね返してしまい、地表にまで届けないからである。このときの雲は日傘のような役割を果たすといえる。
地表からの赤外線を吸収し、再び地表に向かって放出するものといえば、温室効果ガスである。温室効果ガスとして最もよく知られているのは二酸化炭素だが、ほかにもメタンや、雲をつくる水蒸気なども温室効果ガスとして働く。
昨今は地球温暖化問題が声高に叫ばれ、温室効果ガスといえばとても悪いものというイメージが強い。しかし、温室効果ガスは実は地球上の生物にとってはとても大切なものである。温室効果ガスがある現在の地球全体の平均気温は14℃だが、温室効果ガスが全くなくなると、地球全体の平均気温は-19℃になるといわれている。-19℃というのは南極にある昭和基地の年平均気温よりも低い。こんな環境では寒すぎて、よほど充実した設備がないと人類はとうてい暮らせない。だから、温室効果ガスは、地球が生命の星であるために必要不可欠な存在なのである。
ではなぜ、今温室効果ガスが悪者にされるのかというと、人間の活動が原因で近年急速に増えており、それが気温や雨の降り方などに影響を与えていることについて「疑う余地もない」というのが多くの研究者の見解だからである。悪いのは温室効果ガスそのものではなく、不自然に増えすぎているということなのだ。
話は地球温暖化にまで及んでしまったが、とにかく気温という当たり前のように馴染んでいる存在も、実をいうと複雑なしくみで決まっているということだ。そして、「北風と太陽」はわりとそのしくみを端的に表現しているのである。