佐々木賢一

佐々木賢一

四万十川の鮎の火振り漁。伝統的な漁法は夏の風物詩である。

(写真:佐藤秀明

記録とは、護衛である

「速度を変えれば変化がわかる」で、データを可視化することの意味を語ったトライポッドワークスの代表取締役社長の佐々木賢一氏。続く今回は、より具体的なデータの活用例を通じて、データの必要性と生み出す価値について語ってもらった。

Updated by Kenichi Sasaki on May, 23, 2022, 9:00 am JST

データは漬けておくことでも価値を生む

――トライポッドワークスでは、もともと事業の柱だったオフィスソリューション事業に加えて、イメージソリューション事業、IoTソリューション事業を推進しています。前回、「データを保管して人間が理解できる形に『見える化』する」ことで、価値を生み出せるとのお話がありました。

佐々木氏:1つの映像活用の手法として、タイムラプス化によって情報が見えるようになるというお話をしました。そうしたデータは、日々のデータ活用にもつながりますが、保存することでまた違う意味を生み出すことにもなります。

その1つがタイムラプス化したデータを長期保存することで価値を生み出すというものです。トライポッドワークスは宮城県仙台市に本社があり、東日本大震災の復興にも関わってきました。そこで実践したのが、防潮堤工事の映像のタイムラプス化でした。

誰が何をしたのか。主観よりも多くを語る映像

――工事の様子を短時間に縮めた映像に仕立てると、どのような効果が得られますか。

佐々木氏:津波に襲われた沿岸の防潮堤工事の様子を映像で記録し、半年の経過を3分の映像にまとめました。土を盛って、コンクリートを打って、土をかぶせて、芝生を養生するといった工事の流れが、3分でまとまって見られます。これは、誰にでもわかりやすい工事の履歴になります。

防潮堤工事のタイムラプス(一部のみ公開)

建設や土木の工事は、建物や構造物が出来上がってしまうと、その中がどうなっているかを確認することはできません。地域住民にとって関心事であり、施主には説明責任があるのですが、設計図面を見せられてもその意味を理解することは難しいわけです。一方で、タイムラプス化した工事の映像を保存しておけば、いつでも「この堤防はこのような構造で、こう作られたのだ」ということが3分でわかります。映像を保存しておくだけで、多くの情報を伝えられるのです。

――説明責任を果たす以外の効果はありますか。

佐々木氏:建設や土木の業界の慣習では、特に自治体が施主となる事業だと、工事とメンテナンスの企業が一致しないことが往々にしてあります。その都度の入札になるため、事業体が違ってしまい、情報が共有できないことがあるのです。道路の下に土管があるけれど、使わなくなったから取り出そうということになっても、掘ってみないと状況がわからなかったりします。20年、30年前にどこかの会社が工事したものだと情報が何も残っておらず、そういった状況で追加工事やメンテナンスをするのはとても効率が悪いのです。受注する側からしてもリスクがあります。

防潮堤工事のタイムラプス映像のようなデータを工事したときに作って残しておけば、将来の追加工事やメンテナンスの際に多くのことが3分の映像から理解できます。この建物、この堤防のデータをきちんと保存しておくことの必要性があるわけです。

想定外の記録が身を守る

――特定の目的のために、データを保存しておくことが大切だということですね。

佐々木氏:データを保存しておくと、目的以外の用途で効果を発揮することもあります。ダムの建設現場では、生コンクリートを大量に使います。ただし、生コンクリートはナマモノで、足りないと工事が進まず、余るとすぐに固まってしまって産業廃棄物が大量に生じます。適切な量の生コンクリートを運搬するために、ダムの工事の状況を映像として記録し、どこまでコンクリートを打ったのかを彩色や数値化により可視化しました。プロセス管理のための映像の利用でした。

でも、ずっと映像を記録していたら、台風が襲来して工事現場に水があふれる様子が逐一映像として残されていました。被害の状況も可視化できましたし、水が引いていったときの現場の優れた対応も映像で確認できました。データを残しておくと、想定した目的以外の価値が生み出されることがあるのです。

もう1つ事故の事例があります。ある工場では、作業員の勤怠管理のためにカメラで映像を記録していました。カメラ映像の記録は営業時間外も続けていたところ、ある休みの日に火事が起きて、その様子が映っていました。営業時間外なので不審火が考えられたのですが、保存された映像から、放火ではなく設備のトラブルから発火したことが確認できました。

エビデンスという意味では、保育施設における赤ちゃんの見守りに映像記録を活用する事例もあります。突然死を防ぐために、うつぶせ寝を検知して保育士に知らせるシステムですが、万が一のトラブルの際に、園や保育士側に過失などがなかったことを証明することにもつながります。

データというのは、普段のプロセスを見て管理するだけでなく、アーカイブして分析することもできますし、保存してあればアクシデントが起きたときのエビデンスにもなります。何が起きたのかを正確に理解することで、改善のための対処ができますし、身内を守ることもできます。さまざまな映像の活用は、今後ますます増えていくでしょう。今後10年ほどは人間がうまく活用するために映像データを使うことになるでしょうが、その後はAIによる判断の自動化が進むでしょう。そうなるためには、大量の映像データをクラウド側へ高速に転送するための無線を含めたネットワークの高速化はもちろん、セキュリティ、ストレージ、クラウドのコンピューティングパワーなどによりハイスペックなものが求められるようになると思います。

多くのPoCは「時期尚早でした」というアリバイ作りになっている

――データの活用として、イメージソリューションのほかにIoTにも力を入れていらっしゃいます。

佐々木氏:IoT事業は大きく伸びています。特に自動車分野を中心としたソリューションです。自動車の分野は、市場規模が大きくグローバルに市場が広がっているだけでなく、これから変化が急速に進み、課題が多く見つかっていきます。ベンチャー企業が入り込む余地がある業界だと思っています。

IoTやドローン、AIなどは、価値が期待されて行政や企業で多くのPoC(概念実証または実証実験)が行われました。本来、この変化の激しい時代の中で、新しいテクノロジーでどのように事業や業務をデジタル化して効果を出して行けるのかをPoCで実証し、素早く変革を実行することが今の日本の企業や官公庁自治体に求められているはずです。しかし現実には事業化のための実証実験ではなく、トップから新しいテクノロジーでの変革を指示された担当者が、言葉を選ばずに言えば、変化を起こしたくないがためのアリバイ作りのためにPoCを行う、つまり実現できない理由を探すための実証実験になってしまい、結果として、テクノロジーベンチャーにはいわゆるPoC疲れしているところも多いと言うのがここ数年の傾向かと思っています。

変化への対応が待ったなしになっている業界ではソリューションが実用化しやすい

――確かにPoCの情報は多く聞きますが、事業化の情報は少ない実感があります。

佐々木氏:でもその中で、建設業界のイメージソリューションと、自動車業界のIoTソリューションは、実証実験がビジネスにつながることが多かったのです。後付で理由を考えると、建設も自動車・運輸も人手不足で、従来のビジネスモデルに限界が来ていることが挙げられること、双方ともに規制業種で国の方針によるデジタル化推進が強制力を持っていることが考えられます。また特に自動車業界では、世界的な変化の流れが押し寄せています。すなわち変化への対応が待ったなしになっている業界では、IoTなどのソリューションが実用化されやすいということです。

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港町ケープタウン。背景にテーブルマウンテンがそびえる。2010年ごろ撮影。

――自動車業界ではCASE(コネクテッド、自動運転、シェアリング、電動化)への対応が、100年に一度の変化をもたらしています。

佐々木氏:CASEで大きな変化が生まれ、新しい仕組みが出てきます。するとIoTやITの仕組みで対応する企業にとってビジネスチャンスになるでしょう。例えば、「コネクテッド」は、ちょっと曲者だと感じています。自動車をネットにつないで様々な情報をやり取りし、IT化する取り組みですが、そのデータは「自動車メーカーが収奪する」仕組みになっているようです。自動車メーカーにとっては、コネクテッドカーから得られる情報で新しいビジネスが生まれるかもしれませんが、自動車業界の多くの企業にとってクルマがブラックボックスになり、必要なデータを収集・活用できなくなっています。そこでトライポッドワークスでは、自動車業界の企業が自社に必要なデータをどうやって収集するかのお手伝いをしています。

トライポッドワークスが提供するのは、「BLUE-Connect」と名付けた車載IoTプラットフォームです。クルマにセンサーを設置し、車載のエッジサーバーやスマートフォンを経由して、クラウドに情報を収集して保管・分析を可能にします。コネクテッドでブラックボックス化してしまったクルマをつなぐためのプラットフォームなのです。

空気圧のモニタリングで安全性を高め、環境負荷を減らす

――具体的な事例を教えてください。

佐々木氏:DUNLOPブランドなどでタイヤを製造販売する住友ゴム工業は、タイヤの空気圧監視システム(TPMS、Tire Pressure Monitoring System)にBLUE-Connectを活用しています。キャップ型の空気圧センサーの情報を集めることで、パンクなどのトラブルを未然に防ぐことができます。一般ドライバー向けのサービスと、企業向けのサービスがあり、企業向けサービスでは車両管理者が全国のトラックのタイヤの空気圧の情報を一手に管理できるようになりました。

タイヤの空気圧が不足すると、燃費が悪化し、コストやCO2排出に不利になるだけでなく、タイヤの寿命が短くなって資源問題にもつながります。セルフ型のガソリンスタンドが増えて空気圧をチェックしてもらう機会が減っている中、2~3割のクルマが空気圧不足で走っているというデータもあります。空気圧をモニタリングして、適切な空気圧で走ることで地球環境に与えるダメージを減らすことができるのです。

カー用品販売のオートバックスを運営するオートバックスセブンは、BLUE-Connectを活用したアルコールチェックサービス「ALCクラウド」を提供しています。輸送業、運輸業では、点呼でアルコールチェックが義務付けられています。その業務をサービス化して提供する取り組みです。簡便なチェックの仕組みと、クラウド上で効率よく管理できる仕組みを作り、輸送、運輸の企業の負担を軽減しながら安全に施策を拡充できるようにしました。

トライポッドワークスは、クルマやドライバーの情報をクラウドに集めるプラットフォームをライセンス提供し、自動車業界の主要プレーヤーがコネクテッドカーとは違うルートでデータを取る手助けをしているわけです。サービスが成功したときはレベニューシェアするビジネスモデルです。

集めたデータから生まれてくる波及効果

――データを活用するためのプラットフォームを提供して、得られる効果にはどのようなものがありますか。

佐々木氏:住友ゴム工業では、タイヤ管理のサービスを提供することで、自社のタイヤが実際に使われている生のデータを収集することが可能になりました。例えば東京から大阪までトラックが走った場合、タイヤの負担は走行経路によってまったく異なります。センサーからは空気圧に加えて温度変化もデータとして得られます。これを多くの車両で経年変化として捉えていくと、摩耗の具合やタイヤへの負担に関するデータが蓄積できます。タイヤの開発や、ローテーションなどの運用のための基礎データが得られるわけです。これまでは、プロセスがわからず、パンクや摩耗といった結果だけで判断しなければならなかったのですが、データが新しい価値を生み出すことにつながります。

同じタイヤ空気圧監視システムも、九州地区でバジェット・レンタカーを運営しているイデックス・オートジャパン社では、貸し出した車両が返却されたときの空気圧チェックにこのシステムを活用しています。従業員は、返却時にタブレットを見るだけで空気圧チェックが完了します。これまではタイヤごとにしゃがんでバルブキャップを開けてチェッカーを当ててという作業をしていましたが、チェック時間が半分以下になりました。冬場にはバルブキャップを開閉する指が痛みましたから、女性従業員に特にありがたがられるという効果も生まれています。

それほど人の役に立たなかったこれまでのIoT

――データ活用の直接的な分析だけが効果ではないのですね。

佐々木氏:IT化、IoT化はマネージャーや経営層の役には立つけれど、仕事の仕方が変わるなどといった理由から現場に受け入れられないことがあります。弊社は現場も楽になるITサービスの提供を目指しており、実際にレンタカーの事例のように、サービスを導入した現場から喜ばれていることが多いのが特長です。IoTやデータ活用などというと、大層なことだと考えがちですが、現場では冷たいものを触りたくない、しゃがみたくない、といった課題があり、こうした課題の解決にデータプラットフォームが遠回しに役立つこともあるのです。単にIT化しても効率化もできないし、人間の役にも立たないことが多いわけですが、これからはもっと本当に人間の役に立つITが必要だと思います。

住友ゴム工業とは、タイヤのデータの一部をゆくゆくはオープンデータにしていきたいという構想があります。例えば路面凍結による滑りやすい路面かといった情報が、オープンデータで活用できるようになるわけです。今後のデータ活用は、オープンデータの利用も重要なポイントでしょう。商用データとオープンデータを組み合わせて、課題解決に活用していけたらいいと考えています。

(聞き手・文:岩元直久)

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