野原佳代子

野原佳代子

ブリスターが変われば、コンタクトレンズユーザーの「見る」はもっと豊かな行為になるかもしれない

衛生用品はその特質上、多くのプラスチックを包装材として消費そして廃棄することがある。これは当然多くのゴミを生むが、プラスチックのリサイクル率は低い。人々の安全と環境問題はトレードオフの関係になりがちだが、これを本当に解決しようとしたとき、新たな価値が生まれるかもしれない。サイエンス&アートの実践の場からのリポートを紹介する。

Updated by Kayoko Nohara on May, 30, 2023, 5:00 am JST

「見る」ことは、もっと豊かな行為になるかもしれない

社会的課題には、必ず科学的な面も、アート的な面もある。科学は理論的、実証的、厳密な手続きを踏んで事実を積み上げ、グレーゾーンを消していく。一方アートは物事のグレーな部分や裏側、ノイズを拾い上げて浮き彫りにしていく。どちらもものごとを追求する方法論だが、科学が事象をとらえフォーカスし切り取るのに対し、アートはできあがった 「事実」に対し「他にオルタナティブはないのか」と、再定義、再発見を促していく傾向が強い。この事実を明確にとらえることと(科学)と、問い直しとしてのアートが絡み合うところに、異分野融合のおもしろさがある。

見ることは、目を開けて視覚的にものを認識するだけだ、と考える人も多いだろう。しかしコンタクトレンズユーザーの場合、見ることにはいろいろな行為がもれなくついてくる。プラスティックのブリスターのフタをめくる、はがす、捨てる。捨てるのは、どこに捨てるのか。燃えるゴミ?不燃ゴミ?リサイクル回収ボックス?それによって環境への最終的な負荷は変わる。見るとは、プラスチックを捨てることか。あるいは捨てずに回収ボックスに入れ、リサイクルのルートに乗せ、循環させることか。見ることの意味は、人の行為次第で変わっていく。そのことが、アート作品を通じて来場者に伝わり、サステナブルな未来へ向けて次の思考につながれば、と思う。

研究指導 / 執筆協力: 東京工業大学環境・社会理工学院 朱心茹助教・Giorgio Salani特任助教