松浦晋也

松浦晋也

(写真:JAXAデジタルアーカイブス / JAXA

データの徹底利用が真の国家安全保障につながる

前回、科学ジャーナリストの松浦晋也氏は、もはや人類は情報により地球をマネジメントできる時代であることを解説した。そのために大切なことは徹底した「データ利用」であるという。その意味・理由についてさらに詳しく綴る。

Updated by Shinya Matsuura on June, 21, 2023, 5:00 am JST

一次情報を公開していくことで、欺瞞情報への耐性は向上する

このような情報公開の姿勢は、直接と間接の両方で、欺瞞情報への耐性が強い社会を作るのに役に立つ。
「情報の公開」が「情報の秘匿」よりも簡単かつ低コストになったことで、ネットには欺瞞情報が溢れるようになってしまった。嘘を付くのは簡単で広めていくのも簡単。逆に嘘を論破するのにはコストがかかるためだ。

しかし常日頃から地球観測という「地球のマネジメント」に必須の一次情報を公開しておくことで、嘘を論破するコストを低下させ、社会全体の欺瞞情報への耐性を向上させることが可能だ。ウクライナ侵攻でロシアがブチャで行った虐殺では、ロシアは「ウクライナがやったことだ」と主張した。それを打破したのは衛星で取得された地球観測データであったことを思い出そう(参照: もはや国家権力と変わらない性能を有している民間の地球観測技術)。

偵察衛星のデータには、国家が想像もしていなかった使い方がある

私は国家が運用する偵察衛星のデータも一部無償公開して、ユーザーコミュニティが利用法を探るのに使えるようにすべきと考える。情報収集衛星で指摘したように、偵察衛星も「地球観測衛星の一種」であるからだ(参照:年間800億円を消費し続ける、情報収集衛星。偵察のためだけに使うのはもったいない)。

そのデータに、国家が想像もしていなかった使い方が眠っているのは間違いない。特に日本の情報収集衛星は、基本的に地球観測衛星と同じで、分解能が高いだけのシステムなので、機密指定されている情報収集衛星の取得データには利用されざる莫大な価値が眠っていると推定される。

さらには現在、民間によるOSINT(オシント:Open Source Intelligence、公開情報に基づく状況分析)が、国際情勢の把握に力を発揮し始めている。偵察衛星本来の安全保障への利用という面からも、民間に偵察衛星のデータを提供することは、OSINTの発展による国際情勢の安定を図ることにつながる。