福島真人

福島真人

(写真:Dmitry Chulov / shutterstock

研究の流行、追うべきか追わざるべきか

世界では多種多様な研究が進められているように見えるが、その内容には流行がある。流行はどのように生み出されているのか、流行に乗ることには利点があるのか、STS(科学技術社会学)の見地から紹介する。

Updated by Masato Fukushima on October, 27, 2023, 5:00 am JST

たいていの研究者は流行りのテーマを集団で追求する

だいぶ昔の話になるが、大学に入りたての頃、ある人文地理の教官から、研究者の二つのパターンという話を聞いたことがある。曰く、たいていの研究者は、その時々の学問的な流れに従い、今流行っているテーマを集団で追求する。ただし、そこには例外もあり、こうした流行の変遷とは関わりなく、自分にとっての大テーマにとりくむ研究者もたまにいる。しかし場合によっては、そうした孤高の探求が、新たな流行の発端になる場合もあるという。後者の例として教官が挙げたのが今西錦司の進化論で、誰もそれを論じなかった時期に独自の理論を展開し、のちに大きな波になったのである。

この話は印象的で、殆ど40年以上たった今でもよく覚えているが、それは研究という文脈において、流行という現象とのつきあいがなかなか面倒だからである。流行現象は文理問わず多くの文脈に存在するが、文系では、例えば最新の「現代思想」についての解説書の類が懲りずに出版され、それなりの売り上げがある点からも分かる。他方、流行現象があるのは、何も思想や哲学に限定されない。かつてアフォーダンス概念を本邦で流行らせた研究者と知り合った際、彼が開口一番語ったのは、「心理学には流行がある」という話である。