福島真人

福島真人

(写真:Dmitry Chulov / shutterstock

研究の流行、追うべきか追わざるべきか

世界では多種多様な研究が進められているように見えるが、その内容には流行がある。流行はどのように生み出されているのか、流行に乗ることには利点があるのか、STS(科学技術社会学)の見地から紹介する。

Updated by Masato Fukushima on October, 27, 2023, 5:00 am JST

研究の流行は造りだすことができる

このように研究戦略は大きくわけて、かたやバンドワゴンに乗って集合的な道を進み、かたや半ば孤高の探求者として我が道をいく、という大きく分けて二つのやり方がある。しかし実際は、この二つを(ヘーゲル流に言えば)「止揚」するやり方もある。それは少数のグループで業界の流行を先導してしまうという方法である。人が造ったバンドワゴンを追尾するのではなく、自分とその周辺でこうしたバンドワゴンを意図的に造ってしまうのである。

かつてある理論生物学者と雑談していた時に、彼が「イスラエルの人たちは、そうした議論の先導がうまい」と漏らしていたが、これはユダヤ系という意味だろう。実際、筆者がお世話になっていたラボは、ケミカルバイオロジーという新興領域を推進していたが、その米国のスターの一人はユダヤ系で、彼が脚光を浴びるようになった背景に、こうしたコミュニティの強いバックアップがあったという指摘を聞いたことがある。

国際STS業界も、もともとが新興領域として70年代後半あたりからその影響を拡大してきたため、自前のバンドワゴン生成のやり方について、かなりのノウハウがあるという印象を受ける。その一つの手法が〇〇論的「転回」(turn)という号令で騒ぎを起こし、人々の注意を集めて新たな流行を予告するというやり方である。「ことしの冬は黒がおしゃれ」という話の学術版である。実際、STSの短い歴史をみても、こうした「転回」は夥しく発生し、自然、参加、政治、協働、情動、さらには存在といった単語がこの〇〇の部分を埋めてきた。人類学のような周辺分野もそうした影響をまともに受けて、よく分からないまま存在論的何とか、とオウム返しにしている人も少なくないらしい。当然、こうした転回話には批判も強く、実際存在論的転回といったものはSTSには存在しないといった実証的研究すらある。