半沢の宿敵、大和田暁は本当に悪人だったのか
平成の民放テレビドラマ史上第1位の視聴率42.2%を記録した(2013年版)「半沢直樹」の主人公である半沢直樹の実家は、「半沢ネジ」を経営していた。半沢ネジの経営者であった父親は産業中央銀行(のちに、東京第一銀行と合併し、東京中央銀行となる)に融資を断られたことが原因で自殺してしまう。だが、地元の内海信用金庫が融資をしたため、半沢ネジは事業を続けていくことができた。
半沢は融資をしなかった大和田暁を恨む。それがこのテレビドラマの主旋律となり、2013年版のドラマは展開する。大和田は「晴れた時に傘を差し出し、雨が降ると傘を取り上げる」という銀行の特徴を体現する人物として描かれる。それに対し半沢は、顧客のことを真剣に考えるバンカーである。
二人はこのように対照的人物であり、視聴者は半沢に肩入れをするようにシナリオは設定されているが、筆者には、それはいささかアンフェアな描写というべきであろう(2020年版では大和田は改心していたが、ここではそのことは触れない)。
信用金庫とメガバンクの違い
ドラマでは、メガバンクと信用金庫の区別がつけられていない。これは現実の世界でもよくあることだ。だが銀行は株式会社であり、営利企業であるのに対し、信用金庫は地域の繁栄を図る相互扶助を目的とした協同組織の金融機関であり、主な取引先は中小企業や個人である[一般社団法人信用金庫協会]。
したがって私には、産業中央銀行のような大銀行が半沢ネジのような零細企業(せいぜい小企業)と本当に取引するのだろうかという疑問が湧く。そもそも全国展開をする銀行と地元に密着した信用金庫との機能は異なるのであり、大和田を悪人だと断罪することは不可能であろう。大和田は、あくまで大銀行の理論に従ったに過ぎない。
長谷川清氏の研究によれば、従業員21-50人の企業でさえ、都市銀行をメインバンクとする企業は、25.5%にすぎなかった[「リレーションシップバンキング行政の成果と課題」成城大学経済研究所 研究報告 No.66、2013年 長谷川清]。したがって半沢ネジのメインバンクに産業中央銀行がつくことは、あまりありそうにない。
最初から信用金庫をメインバンク(この表現自体本当はおかしいのだが)にしておけば、半沢ネジは最初から財政的支援を得られたかもしれない。この点で、半沢の父は実は大きな経営戦略上の誤りを犯していたと言えるのである。