今は困らなくても、数年先に困るかもしれない
日本でもBI(ビジネスインテリジェンス)の活用が古くから叫ばれてきた。企業に大量に蓄積しているデータから必要な情報を集約し、ひと目でわかるように分析することで、意思決定や経営判断に役立てる手法だ。必要性や効果はわかっていても、実際のところそれほどBI活用は定着していない。現場が必要だと思って導入や利用を推進しても、分析するための基礎になるデータをどう集めてくるかの壁にぶつかることは少なくない。コストや技術的な問題から、データが分散していて、必要なときに必要なところに集めて利用することができないのだ。技術的には、DXがうまく行かない理由の1つは、データの蓄積の仕方にあると見ている。
もう1つ、日本企業に特有のITへの取り組み方も、DXが成功しない原因になっていると感じる。欧米では、ITをコントロールできる人材が企業内にいることが多い。データが集まって、新しい着眼点で分析しようとしたら、ユーザー企業の内部のIT人材がすぐに解析に取りかかれる。日本の企業では、歴史的にSIerに依頼してITシステムを構築、 運用してくることが多かった。それも業種業態や自社に特有の状況を反映させるカスタマイズを盛り込んだシステム構築と運用だった。新しい着眼点でデータを分析しようとしたら、SIerに対して要件定義をして、基本設計をして、デプロイや試験を経てようやく実現が可能になる。これではコストがかかり、スピード感は得られない。こうしたITシステム構築の構造は、DXの障壁になる可能性が高い。
日本的なデータ活用の仕方でも、今日、明日は困らないかもしれない。しかし変革を求められるときは急に訪れる。数年先に大きな環境変化が訪れたとき、私たちの国の企業は変化に即応できるのか。DXを実現するためにデータ活用が重要だと気づいているならば、早く手を打っておかなければ数年後に困ることになることは自明なのだ。
DXにはデータを最大限活用できるインフラが不可欠
DXとは、単に事象をデジタル化して業務効率を向上させることを指すのではない。もちろん、アナログだった事象をデジタル化してデータとして取り扱えるようにすることで、結果として新しい気付きがあり、ビジネスの変革が実現できれば、それは立派なDXになる。しかし、デジタルデータになったことで一部の業務効率を上げて満足してしまっては、DXには到達しない。
DXで重要なのは、データとデジタル技術の活用をする上で、最大限活用できるインフラを整えることだ。どんなデータにも、必ず価値がある。社内のデータでも、現在はバラバラなシステムで利用されている複数のデータを横串で分析することで、新しい価値が見えてくる可能性は高い。社外のオープンデータと社内デ ータをかけ合わせて分析したら、今まで気づかなかった自社製品の強みや弱みが見えてくることもあるだろう。そのようなデータを最大限活用するためのインフラとしては、すでにクラウドが最重要であることは間違いない。
クラウドを利用する上では、まだ日本ではオンプレミスとパブリッククラウドを融合させたハイブリッドクラウドの構成を採ることが多い。適材適所にデータを格納し、それを利用するという考え方だ。しかし、ハイブリッドクラウドでは、データが集まりたがるデータグラビティ(「すべての情報には質量がある」を参照)が作用し、データは結局のところ分断されてしまう。一度分断されてしまったデータを再び集めて利活用するのは難しい。
データだけが整備されていても、その上でビジネスの変革を遂行するビジョンとモチベー ションが経営陣になければDXは成功しない。しかしそれでも、DXの障壁になるデータの分断を避けておくことは、今後訪れるであろう危機に立ち向かう地力を付けることにつながる。
Neutrix Cloudのクラウドストレージサービスでは、オンプレミスやプライベートクラウド、複数のパブリッククラウドを併用するマルチクラウドに対して、1カ所でデータをすべて管理することができる。
データの分断を避け、すべてのデータをいつでも使えるように準備しておくことが、DXの成功につながり、企業の持続可能性を高めるのだ。