松村秀一

松村秀一

福島の大内宿。英国の女性旅行家イザベラ・バードもこの地を訪れたという。2019年ごろ撮影。

(写真:佐藤秀明

彼女たちはなぜ大工になったのか。女性職人とのダイアローグ

松村秀一氏は「建築と都市の危うい基層 ものづくり人はどこへ行ったのか」のなかで大工が急激に減少しており、それが日本の建築文化の基層を危うくしていることを指摘した。
しかし、建築文化の未来を考えるうえで希望が見える現象もある。女性たちの活躍だ。増えつつある女性大工たちの声を聞いた。

Updated by Shuichi Matsumura on March, 7, 2022, 8:50 am JST

あれ、女性大工が増えてない?

国土交通省住宅局が実施している事業に「大工技能者等の担い手確保・育成事業」というものがある。関連HPには、この事業の目的が次のように書かれている。
「本事業は、大工技能者の減少・高齢化が進行する中、処遇改善、働き方改革、外国人受入れや女性活躍等といった環境変化に対応しつつ大工技能者等を確保・育成するための研修活動等を支援することにより、木造住宅及び都市木造建築物の生産体制の整備を推進することを目的とするものです。」
この目的に沿って、国は、複数の大工技能者関係機関が連携して実施する大工技能者の技能向上のための研修活動や大工技能者が能力・経験に応じた処遇を受けられる環境整備の取組等に対する支援を実施している。そして年に1度、その支援を受けた全国各地の大工技能者関係機関等が一堂に会して成果発表を行う機会がある。この事業に些か関係してきた経緯のある筆者にも、その発表会の案内が届く。

2020年度の成果発表会の時だった。大工技能者の技能向上のための研修活動の報告書の中に、各地での研修活動に参加した大工の人数が記載された表を見つけた。そして、少々驚いた。すべての研修ではないが、複数の地域の研修で女性の参加が見られたのである。女性大工だ。こういう研修を受ける若い女性大工が全国各地にいるというイメージはなかっただけに、とても興味深く思った。何か明るい兆しのように感じたのだ。早速、女性が研修に参加したという報告をあげていた各地の団体に連絡を取って質問した。「この女性大工の方々のお話を伺う機会を作っては頂けませんか」と。有難いことに、全国の8団体が協力して下さり、16名の女性大工の方々にインタビューすることができた。今回と次回は、2回にわたりこのインタビューで聞くことのできた女性大工の皆さんの生の声を紹介したいと思う。彼女たちこそ「ものづくり未来人」だと思うからである。なお、このインタビューは、科学研究費基盤研究(B)「建築現場を担う人材の多様なあり方に関する研究」(課題番号20H02326)の一環として行った。