松村秀一

松村秀一

福島の大内宿。英国の女性旅行家イザベラ・バードもこの地を訪れたという。2019年ごろ撮影。

(写真:佐藤秀明

彼女たちはなぜ大工になったのか。女性職人とのダイアローグ

松村秀一氏は「建築と都市の危うい基層 ものづくり人はどこへ行ったのか」のなかで大工が急激に減少しており、それが日本の建築文化の基層を危うくしていることを指摘した。
しかし、建築文化の未来を考えるうえで希望が見える現象もある。女性たちの活躍だ。増えつつある女性大工たちの声を聞いた。

Updated by Shuichi Matsumura on March, 7, 2022, 8:50 am JST

非ものづくり系の世界から転職して大工になった人たち

ここまでは小さい頃から大工や木造建築の世界に憧れていてまっすぐに大工になった方々の話だったが、それとは全く異なり、ものづくり系ではない他の職を辞めて大工になった人たちもいる。先ずはコロナ禍で大工に辿り着いたヒロコさん(仮名)の話から。

【長野県のヒロコさんの話】
私は、2020年まで子供と2人で東京に住んでいました。ところが、コロナで会社もなくなって里帰りしました。帰ってきて、最初はタクシーの運転手になったのですが、タクシー業界も仕事がなくて全然稼げない。次にとりあえず一番家の近いところで見つけたのが今働いている工務店でした。いきなり「雇ってくれませんか?」という感じで連絡しました。そこで、現場に出る人なら良いよって言われました。大工さんが何をしているかについては全然知らずに入りました。半年前のことです。

入ったら、いきなり翌日から現場でした。新築の壁のボードを貼っている段階でした。ガンでビスをバンバン打つだけだったので、案外楽だしすごく面白いと思いました。そんなに言われるほど大変じゃないなと思って、続けていたのですが、その後初めて建て方をやった時に、信じられない位重いもの、柱や梁を持たされて。「そっち持てよ」みたいな感じで。専門用語も知らないので、大工の親方から指示を受けても、ただただ「?」しかない。それでボーッとしていると、怒られて。これが毎日続くので、辞めた方が良いのかなと悩んでいました。でもその現場が何とか終わった時に、ちょっと自信がつきました。

少しでも自分にできることがあれば、大工の仕事がなくなることはないだろうなと思って続けています。生きていく上で自分の武器になるものを仕事にしようと思っていたので、辞めるという選択肢はないのですが、私がいることで工務店にすごく迷惑をかけているかもしれないと悩んでいたんですね。それが一つの現場を最初から最後まで経験して、自分の中でポジティブに考えて学んでいくという姿勢に変わったように感じています。

次は接客業から大工に転職したトモカさん(仮名)の話。

【宮崎県のトモカさんの話】
以前は接客業をやっていましたが、その仕事を辞めて職業訓練校の住宅リフォーム科に入ったんです。そこでは大工実技もCADもやるのですが、私はどちらかと言うと大工実技の方が楽しくて、やってみようかなと思ったのがきっかけです。同じ学年に女性は15名程いましたが、私以外は皆CADの方に行って、大工をやるという人はいなかったです。私はリフォームの番組を見るのも好きで、そもそも興味があったのですね。職業訓練校に入って、自分がものづくりが好きだったんだと思いました。他の人はやっぱり現場作業となると肉体労働できついのかなという気持ちがあるみたいですが、実際やってみると、多分皆が思っている程きつくはないと思います。

ものづくりが好き、体を動かすのが好きという人たち

大学等で何かやってみて、結局自分はものづくりが好き、或いは体を動かすのが好きということを再認識して、大工の道を選んだという人も少なくない。というか、今回お話を伺った中ではそういう方が多かった。学歴や専門は関係ない。そこも今日的で興味深い。先ずは、北海道のミキエさん(仮名)、ハナさん(仮名)、ナツコさん(仮名)、アサコさん(仮名)、モモコさん(仮名)、ナチコさん(仮名)の話から。

【北海道のミキエさんの話】
元々日本家屋というか昔のつくりの家が好きで、設計の専門学校に行ったのですが、デスクワークは合わないなと思って違う仕事に就きました。ただ、働いているうちに折角だから体を動かすのだったら大工かなと思い直して、ネット検索で今の会社を見つけて社員大工として就職しました。専門学校の同級生たちは大体設計事務所とか、家具の会社とかで働いています。

【北海道のハナさんの話】
元々何かものをつくったりするのが好きで。大工になりたいと思っていたわけではないのですが、家の近くに大工等の技術系の専門学校があって、オープンキャンパスに行って面白そうだと思って入学しました。専門学校で家を建てる勉強をして、改めて面白いと思ったので、学校に来ている求人を見て今の会社に来ました。学校では一軒の家を途中まで、大まかな大工仕事をやりました。

【北海道のナツコさんの話】
設計をやろうと思って工業高校に行ったのですが、設計事務所のインターンシップに行ったら、イメージと違っていて、どうしようかなと思った時に、地元に職業訓練校があるのでそこに行ってみようと考えました。そこのインターンシップでは鉄筋コンクリート造の現場に行ってコンクリートを打ったり施工管理したりするのを手伝いました。でも、座学で習ったのは木造なので木造の大工が良いなと思って、先生の勧めで今の会社に来ました。設計事務所に行くまではまさか大工になるとは思っていなかったのですが、やはり体を動かした方が楽しいです。

【北海道のアサコさんの話】
大学生の時に研究室に籠る生活が続いていたので、体を動かす生活がしたいと思いまして。昼間肉体労働をして夜はぐっすり眠れる仕事が良いと思うようになりました。森が好きでしたから、森林とか木材に関係する仕事が良いなと思っている時に、たまたま今働かせてもらっている会社に出会って、木造の家を建てていて魅力的だなと思い、弟子入りをお願いしますということになりました。初めは大工とは決めてはいなかったです。元々は林業をしようと思っていました。

【北海道のモモコさんの話】
建築の設計がしたくて大学に入ったのですが、そこでのカリキュラムが現場監督になるためのものでした。それを4年間やっているうちに、自分は体を動かす方が好きだなと思ったのと、授業で手刻みをやっていて、それが面白いなと思ったのとで、大工技能士の資格試験を受けるようになりました。3級、2級を受けて合格することができたので、自信につながり、大工をやってみたいという決心がついた感じです。今は実務経験を2年積んで、1級の資格を取るのが目標です。

【北海道のナチコさんの話】
中学生の頃から森に興味があって、木を見ているのも何となく好きでした。ですので、大学では森林科学科に属し林業の勉強をしていたのですが、就職する時に、木を使ったものづくりがしたいなと思って就職先を考えました。直接ものをつくると言ったら大工や家具屋かなという思い付きで就職先を探しました。ネットで検索をして、今の会社に行き着きインターンをさせてもらいました。

大学で建築や林産の勉強をして大工になった方も少なくないことがわかってきたが、サエコさん(仮名)もその一人。

【山形県のサエコさんの話】
大学では建築設計を学んでいたのですが、大学のプロジェクトでツリーハウスをつくっていて、そこで実際に手を動かしてものをつくる楽しさを知り、大工に興味を持ちました。ツリーハウスのプロジェクトには20人位の学生が関わりましたが、私のように実際に大工とかものづくりの分野に就職した人はあまりいません。いても各学年に一人くらいでしょうか。ただし、女性は私が初めてだと思います。

最後に、商業系の高校を卒業してから大工になったタカヨさん(仮名)とコナツさん(仮名)の話。

【新潟県のタカヨさんの話】
私が中学3年生の時に父が亡くなりました。その父が大工をしていました。いわゆる一人親方で、自宅に作業小屋がありました。高校を決める時に、母の勧めもあって手に職をと考え、商業高校に進みました。当初は事務職を希望して就活をしていたのですが、今の会社の大工の求人票で女性社員大工の募集があるのを知って、入ろうと考えました。大工はまさに手に職をつけられると思って。この会社にはその時点で既に3人の女性の先輩がいました。25年程前の話です。その求人票を見るまで、自分が大工になるとはイメージしていませんでした。でも、やったことがなくても、入った後でできるようになるだろうと思いました。また、自分は事務仕事向きではないなという感覚がありました。体を動かしたいなという。

【愛媛県のコナツさんの話】
私は高校2年生で大工になりたいと思いました。昔からものづくりが好きで、なんでもつくるのが好きでした。高校は商業科だったのですが、じっとしている仕事は苦手だなと思っていました。たまたま高校2年生の時に、テレビで女性大工の方のドキュメンタリーを見て、それが滅茶苦茶かっこいいなと思って、憧れて、私もなりたいと思いました。その方の出身が愛媛だったんですよ。おお、すごいなと思って。その話を母にしたら、高校の商業科から大工になるよりは、一回職業訓練校のようなところに行って、ちょっとでも勉強してからの方が良いとアドバイスされました。それで地元の職業訓練校に行きました。同級生は15人ですが、年齢も様々でした。女性も4人いました。ただ、大工になったのは自分だけです。他の人の進路は設計士になるとか、営業とか、地盤調査とか。大工になれる訓練は一通りやったのですけどね。皆、私のように大工になろうと思って職業訓練校に来ているわけではなかったのですね。

就職先を探しましたが、なかなか大工の求人がなくて。やっと今の会社に辿り着きました。ホームページで見ていたらすごく良いなと思って決めました。良かったのは、木材の加工を自分たちでやるところだったり、古民家再生もしているところだったり。それから一番良いのが家から近いこと。実家から車で10分ですから。
(彼女たちの話は次回に続く)