松村秀一

松村秀一

福島の大内宿。英国の女性旅行家イザベラ・バードもこの地を訪れたという。2019年ごろ撮影。

(写真:佐藤秀明

彼女たちはなぜ大工になったのか。女性職人とのダイアローグ

松村秀一氏は「建築と都市の危うい基層 ものづくり人はどこへ行ったのか」のなかで大工が急激に減少しており、それが日本の建築文化の基層を危うくしていることを指摘した。
しかし、建築文化の未来を考えるうえで希望が見える現象もある。女性たちの活躍だ。増えつつある女性大工たちの声を聞いた。

Updated by Shuichi Matsumura on March, 7, 2022, 8:50 am JST

希望を感じられる手仕事への眼差し

以上、全国各地で大工として颯爽と活躍する16名の女性たちが、何故大工になったかを語った生の声を紹介させて頂いた。部分的に似た話もあるにはあったが、やはり事情は一人ひとり固有のものだ。だからこそ、本稿では全員の声を取り上げた。

昭和記念公園
昭和記念公園。夏になると、この巨木の下にたくさんの人々が集まる。2019年ごろ撮影。

こうして16名の女性大工の話を書き写してみて改めて感じたのは、そのポジティブさだ。今回は大工になった経緯の部分のみ取り上げたが、そこからだけでも伝わってくると思う。このように大工という職業を、そしてものづくり人の仲間に加わることを、「かっこいい」という感想に代表されるように肯定的に捉える感性が豊かに存在していることには、大いに勇気付けられる。ただ、学友の中でも大工になったのは「私だけです」という話が多く聞かれたのも事実である。これに関しては、他の職業から転じて大工の道に入った人が少なくなかった点に光明が見出せると思う。情報提供が重要であることは間違いない。

また今回の話は期せずして、属人的な技能と属人的でない技術の関係という、建築文化にとって、或いはものづくりの世界全体にとって重要なテーマを浮かび上がらせた。彼女たちが憧れの対象として古民家や宮大工に触れる時、そこには機械加工に依存しない手仕事への眼差しがある。他方、彼女たちが働く現代の木造建築の市場において、大工による墨付けや手加工を必要としない全自動加工機の普及率は9割を超えたとも言われる。高みがあるからこそのものづくり人の世界と、機械化や情報化が進展することで競争力が獲得される市場のメカニズム。この二つの折り合いのつけ方に関しては、いずれ本連載で腰を入れて考えなければならない。今回は、その頭出しとしておきたい。

それにしても、ものづくり未来人について考えるのに、それに属する彼女たちの生の声に耳を傾けたのは正解だった。日常的な言葉の中に、ものづくり人の世界の本質がすぐに表れてくるからだ。次回は、彼女たちの「大工になってから」を聞いてみたいと思う。

最後に、今回のインタビューにご協力下さった女性大工の皆様、またその所属企業・所属団体の皆様、そしてインタビューに聞き手や記録係として参加した研究仲間の皆様に、心より感謝申し上げます。