饗庭伸

饗庭伸

Holomaps上で地図を重ねて議論している様子。(写真:饗庭伸)

地方自治体が溜め込んだ膨大なデータがようやく生かされる。プロジェクトPLATEAUで実現するこれからのまちづくり

最新技術とは縁遠そうに思われる「市民によるまちづくり」の現場においても、デジタル技術は大きな力を発揮している。技術が、参加者たちの情報処理能力を向上させるからだ。実際に八王子市の市民とともにワークショップを行った饗庭伸氏のレポートを紹介する。

Updated by Shin Aiba on April, 11, 2023, 5:00 am JST

地方自治体が溜め込んだ膨大な量のデータを使うチャンスが出てきた

プロジェクトPLATEAUは国土交通省が主導する3D都市モデルの利活用プロジェクトである。地方自治体が5年毎に行っている都市計画基礎調査のデータを使いやすい3Dの都市データに加工して公開するもので、民間(真っ先に食いついたのは、ゲーム業界だったという)や公共が現場で実験的に使ってみるユースケース開発が行われている。
都市計画基礎調査のデータは都市計画の立案や許認可以外にはあまり使われることがなく、やや勿体ない状況にあったが、プロジェクトPLATEAUが採用されたことで、データの使い道ができた。

2022年には、MR(Mixed Reality)技術を開発する株式会社ホロラボと筆者の研究室が協力して、東京郊外の八王子市において、プロジェクトPLATEAUを使った大規模な公共施設跡地の開発の構想づくりに取り組んだ。

対象となったのは、八王子市の工業地域にあるゴミ処理工場、下水処理場、屎尿処理工場等の跡地、約17haの再開発である。老朽化と合理化によってこれらの施設が廃止されることになり、八王子市は2020年より再開発構想を検討していた。市は2022年に開発の基本構想を検討していたが、その検討と並行して、ホロラボと大学で市民が参加するワークショップを立ち上げ、3D都市モデルを使って整備をイメージしていくことにしたのだ(より詳細を知りたい方は、こちらをごらんいただきたい)。

ともに考えようにも、市民には東京ドーム4個分の使い方をイメージすることが難しい

人口減少時代に入って、かつてのニュータウン開発のような大規模開発は都心の再開発事業を除いて、すっかりなくなってしまった。その中で、このプロジェクトは珍しく大規模なものであり、都市構造を変えてしまうようなインパクトを持ちうる。

しかしその一方で、町外れの土地で市民の馴染みがなく、公共用地であるためにステークホルダーも少ない。つまり、この場所を我が事として考えられる市民がほとんどいない状況だった。さらに近所の公園くらいの土地であれば想像力もはたらくが、東京ドーム4個分、17haという広大さを相手にすると、開発のイメージを描くことも難しい。公害が多発した都市成長期のように深刻な都市問題があるわけではなく、災害が起きた後のように切実に必要なものがあるわけではなかった。そこに惰性のようにタワーマンションやショッピングモールをつくることは可能だが、それは本当に必要なものではないかもしれない。「ほしいものが、ほしいわ。」は、1988年の西武百貨店のコピーであるが、それから30年後の現在も同じ状況だったのである。

どのように土地に対するイメージをかきたて、開発のビジョンをつくっていくか、多くの市民からいかに豊かなイメージを引き出し、ビジョンを組み立てていくか、そこに3D都市モデルと、MR技術を使ってみようと考えたのである。

開発する土地の様子を具体的にイメージできるよう、MR技術を駆使

現地においてQRコードを読み取ってCGを視聴している様子
現地においてQRコードを読み取ってCGを視聴している様子。写真には写っていないが、参加者はHoloLensやiPadを通じて地下に埋設された水道管のCGを見ている。(筆者提供)

では、具体的にどのようなワークショップを開催したのかを見ていこう。各種のメディアで公募したところ、まちづくりやPLATEAU、MR技術に興味を持つ40名ほどの市民が集まり、対面とオンラインを並行させたワークショップを開催することができた。単発ではない、連続したワークショップである。ワークショップは大きく4つのステップに分けて行ったので、順を追って説明していく。

最初のステップでは、まちづくりの現状とMR技術を説明した。対象敷地の歴史や地域課題を説明したのちに、MR技術の体験会を行った。MRは視覚の全てを使って仮想の空間体験をするVR(Virtual-Reality=仮想現実)とは異なり、ポケモンGOのように視界の一部に仮想のデータを重ねるAR(Augmented Reality=拡張現実)とも異なる。現実空間と仮想世界を融合させて見せるMixed-Reality=複合現実であり、建物のCGを敷地で確認をする時などに使われる。体験会ではHMD(頭に被るタイプのディスプレイを持つPC)の一つであるMicrosoft HoloLensと、タブレットPCの一つであるApple社のiPadのどちらかを使ってMRを体験した。新しい技術は楽しいものであるので、参加者が驚きの声をあげながらMR技術を体験し、それを通じて参加者同士、スタッフ、市の職員とのコミュニケーションが生まれていたことが印象的であった。

2番目のステップは、敷地を調べ、課題を共有するワークショップである。先述の通り敷地は市民にとって馴染みの薄い場所であったため、敷地を歩き回って課題を発見し、それを参加者で共有することからまちづくりの検討を始めることにした。
行政の側も手持ちの情報をしっかりと伝えないといけないため、通常は部屋の中で事前のレクチャーを行った上で、資料と地図を抱えて敷地を調査し、戻ってきてその成果を共有するというワークショップが行われる。しかしそれではインプットできる情報の質と量が十分でなく、アウトプットも不十分になりがちだ。

そこでインプットの工夫として、事前に行政職員が敷地について説明をするボリュメトリックビデオ(3Dビデオ)や、敷地の現状を解説するCGを作成し、敷地内の各所にその映像を配し、そこを訪れた参加者がHoloLensやiPadを通じて映像をその場所に重ねて視聴できるようにした。

アウトプットの工夫としては、現地でiPadを使って参加者が短い動画を撮影し、それを地図データの上にアップロードできるアプリケーションを開発。参加者が感じたことを一つの地図の上にすぐに共有できるようにした。Googleマップを参加者が共同でつくりあげていくようなアプリケーションとイメージしてもらえればよいが、このワークショップではPLATEAUデータを使ったHolomapsというアプリケーションを開発した。