饗庭伸

饗庭伸

Holomaps上で地図を重ねて議論している様子。(写真:饗庭伸)

地方自治体が溜め込んだ膨大なデータがようやく生かされる。プロジェクトPLATEAUで実現するこれからのまちづくり

最新技術とは縁遠そうに思われる「市民によるまちづくり」の現場においても、デジタル技術は大きな力を発揮している。技術が、参加者たちの情報処理能力を向上させるからだ。実際に八王子市の市民とともにワークショップを行った饗庭伸氏のレポートを紹介する。

Updated by Shin Aiba on April, 11, 2023, 5:00 am JST

地図をHolomapsに重ねて都市の課題を議論し、敷地の整備の方針を明文化していく

3番目のステップは、都市の課題を共有し、敷地の整備の方針を考えるワークショップである。ここまでのステップで、参加者の問題意識に基づいた敷地の情報を集めることができていた。このワークショップでは、そこに都市についての情報をぶつけて、参加者の問題意識を育て、敷地の整備の方針を考えることにした。

都市についての情報は溢れかえっている。例えば半世紀前には国勢調査のデータを一般の人が見たり、分析したりすることは難しかったが、今はe-statで誰もが入手することができ、手元のPCにダウンロードして分析することができる。しかし一度e-statを覗いてみるとわかるが、そこでは途方もない量のデータが公開されており、初めての人は、何を見ればよいのか途方にくれてしまう。問題はデータが公開されているかどうかではなく、どういうデータを選び、それをどう組み合わせて、自分が必要な情報をつくりだすのか、というデータの編集力にある。

そこでこのワークショップでは、公開されているデータを使った100枚以上の地図を事前に作成し、そこから参加者が選んだ地図をHolomapsに重ね合わせて都市の課題を議論し、敷地の整備の方針を明文化していく、というワークショップを開催した。いわば、情報を共同で編集し、編集を通じて問題意識を育てるというワークショップである。

参加者はテーマごとに4つのテーブルに分かれ、スクリーンの上で様々な地図を重ね合わせ、議論を行う。交わされた議論は付箋紙によって記録され、それが積み重なって、当初は曖昧だった敷地の整備の方針が、徐々に明確な言葉になっていった。例えばあるテーブルでは、対象地が工業地であることの特徴を生かして「ほかの産業とコラボして新しいものを作りたい!」という方針がまとめられ、水環境について議論したテーブルからは「山田川でウォーキングや自転車利用を促進し健康になれる北野にしたい」という方針がまとめられた。

Holomaps上で地図を重ねて議論している様子
Holomaps上で地図を重ねて議論している様子。机上には模造紙が広げられ、付箋紙を用いて議論がまとめられている。こういったデジタルとアナログのバランスもデザインしていった。(筆者提供)

MR技術を用いて「手を動かして考える」

4番目のステップでは、3番目までのステップで得られた敷地の整備の方針をもとに、その方針を実現化する空間のイメージを検討するワークショップを開催した。言葉で考えてきたことを、実際の空間に落とし込んで考えてみるという、ワークショップの醍醐味ともいえる回であった。

空間を検討する時に、模型を使うワークショップが開催されることは多くある。完成された綺麗な模型ではなく、ダーティプロトタイプとも呼ばれるラフな模型を参加者が一緒につくりあげていくワークショップである。手を動かして考えることによって意図しない造形が生まれることもあるし、そのことによって頭が活性化し、考えが深まっていくこともある。空間のイメージの検討のために、没入型のVRが使われることもあるが、その場合はどうしても手の動きが疎かになる。マウスやグローブは使われるが、どうしても「手で考える」というよりは、「手で指示する」という動きになってしまう。このワークショップでは、MR技術を用いて「手を動かして考えること」を試行した。

具体的に行ったことは、机上に展開された敷地の3D都市モデルの上に、様々な建物や施設の3D都市モデルを参加者が重ね合わせるというワークショップである。あらかじめ「タワーマンション」「船着場」「スケボーパーク」といった50種類の建物や施設の3D都市モデルデータを準備し、それぞれを葉書大のカードに対応させておく。カードをHoloLensやiPadに認識させると、対応する3D都市モデルが出現し、参加者はそのカードを動かすことで3D都市モデルの位置を調整することができる。そして複数の参加者の3D都市モデルを組み合わせることで、空間イメージを検討する。それぞれのカードにはコメントを入力することができ、3D都市モデルを巡って交わされた意見が記録される。

一通り3D都市モデルを組みあわせたあとは、「タンジブルツール」と呼ばれる、積み木やレゴブロックなどをさらに組み合わせて、空間のイメージを補強していく。机上で、バーチャルな3D都市モデルと、リアルなタンジブルツールを組み合わせる、というまさにMRの特徴を活かしたワークショップである。

参加者は手持ちのカードを出し、手で動かすことで空間のイメージを考えた。そしてタンジブルツールを使ってさらに手を動かし、一つのイメージをつくりあげていった。こうしてつくられた空間のイメージは、デコボコとした手触りをもつ、様々な空間が立体コラージュのごとく組み合わされたものであったが、参加者の問題意識がよく反映された豊かなイメージとなった。

机上で3D都市モデルを組み合わせて議論している様子
机上で3D都市モデルを組み合わせて議論している様子。記録されたコメントが3D都市モデルの上に表示されている。(筆者提供)

ここまで、現在の情報技術を使って市民とともにまちづくりを行っていくための方法の具体例を示した。続く次稿では、データの活用とテクノロジーがまちにもたらす影響を改めて整理したい。

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