今井明子

今井明子

あきる野市の古刹、広徳寺。銀杏が有名だが、春には古びた茅葺き屋根に桜が枝垂れかかるような情緒ある風景が楽しめる。

(写真:佐藤秀明

花見の予定だけではない。桜前線からわかること

桜の開花予想が大々的に報じられることを奇妙に思ったことはないだろうか。たしかに、花見はビジネスの手段になることもあるが、宴会のための情報がここまで大々的に発せられるのは行われるのは妙だ。
実は、桜の開花情報によってわかることは花見に最適な日時だけではない。そもそも花見は昔は長期予報の意味合いがあったという。桜の開花情報が持つ大切な意味をサイエンスライターの今井明子氏が詳しく解説する。

Updated by Akiko Imai on February, 25, 2022, 8:50 am JST

気象台に緑が多い理由

仕事柄、横浜地方気象台に何度か訪れたことがある。横浜の山手地区、洋館や外国人墓地の立ち並ぶ観光エリアの中に横浜地方気象台は存在する。昭和初期のアール・デコ調の本館と安藤忠雄設計の新館は一見の価値がある。敷地内に入ると、思いのほか緑が多いことに驚く。庭にはたくさんの観測機器が設置された芝生の露場があり、その周囲にはよく手入れされた木が植えられているのだ。そして、見上げれば解放感いっぱいの広い青空。かつてはここで職員が空を目で見て観測を行っていた。素敵な建築と自然豊かな庭を見ると、心が洗われる。横浜地方気象台は、無料で見学できる山手散歩の穴場スポットなのである(ただし、現在はコロナ禍ということもあり、一般公開は中止されている)。

なぜ、地方気象台にはやたらと緑が多いのか。それは、生物季節観測を行っているからだ。気象庁で観測するのは気温や降水量だけではない。さくらやあじさい開花、いちょうやかえでの紅葉など、生き物がその年初めてどうなったのか、何をしたかも記録しているのである。それは、植物の開花や紅葉が、気温や降水量などと密接に関わっているからだ。

ただ、生物季節観測を行ってはいるものの、気象庁は今は桜の開花予想を行っていない。予想を出すのは、民間気象会社だ。各社の予想には、桜の開花が予想される日が線で結ばれている。これが桜前線である。

乙津花の里
乙津花の里の春。ソメイヨシノや枝垂れ桜などの花々が里山を華やかに彩る。