生物で季節を知る取り組みが危機に瀕している
冒頭の話に戻るが、気象庁が地道に生物季節観測を続けているのも、こういった背景があるからだ。桜が開花したニュースを聞けば、「ああ、もう桜が咲いたのか。春だなあ」と季節の移ろいを感じることができる。それに加えて「今年は3月になっても寒い日が多かったから桜の開花も遅かったんだな」とか「この地方では20年前と比べて桜の開花が早くなっているのか」ということもわかるということだ。桜前線からわかるのは、花見の予定だけではないのである。
ところが、2021年の春に、気象庁による生物季節観測が大幅に縮小されることになった。かつては「うぐいす初鳴」「つばめ初見」などといった動物の生物季節観測は廃止され、植物も大幅に観測種目が縮小されて、「つばき」や「たんぽぽ」などが観測項目から外れてしまった。理由は都市化によって観測対象となる動植物が減って、観測を続けるのが難しいからだという。確かに、つばめが軒先に巣を作って子育てする風景を大都市のオフィス街で見つけるのはなかなか難しい。しかし、1953年から連綿と続けられてきた観測が廃止されるのは、気候変動の傾向を知る上でも危機的である。
これに問題意識を持つ関係者は多く、危惧の声を受けて今は気象庁と環境省、国立環境研究所が協力し合い、新しい形で観測が継続できるように模索しているところだという。
季節の移ろいを知るだけでなく、地球の気候変動も知ることができる生物季節観測。どういった形で続けていけるのか、これからも注視していきたいと思っている。