饗庭伸

饗庭伸

カナダの世界遺産・ケベックシティの夜景。2010年ごろ撮影。

(写真:佐藤秀明

未来都市は「分け合う」ことで実現できる

DX化された未来を思い浮かべるとき「スマートシティ」を連想する人は少なくないだろう。しかし都市計画の専門家である饗庭伸氏は、「日本において全く新しい未来都市が誕生する」と考えるのは誤っているという。では、どうすればスマートシティは実現できるのか。饗庭氏のユニークなアイディアを紹介する。

Updated by Shin Aiba on March, 23, 2022, 8:50 am JST

ゆっくりと曖昧に低密化していく都市

「人口が減ると私の都市はどうなってしまうんでしょうか」
時々電話や電子メールで相談が来る。人口が減り、世帯が減っていくと、都市の中に小さな穴があくように空き家や空き地が増えていく。一つ一つの家には年をとった人が住んでおり、その人たちがだんだんとこの世を去っていくから空き家や空き地が増える。その都市に魅力的な仕事があれば、若い人たちがその仕事に惹かれて都市にやってきて、その空き家や空き地に入り込む。かつてのように若い人たちが次々とやってくるわけではないので、ほとんどの都市では、空き家や空き地が増える早さがそれを再利用される速さを上回り、都市の中にはじわじわと空き家や空き地が増えていくことになる。あちこちでバラバラと空き家や空き地が増え、そこにバラバラと新しい人が入り、その間にもあちこちでバラバラと空き家や空き地が増えていく、という、何ともはっきりしない調子で都市の空間はゆっくりと低密化していく。

日本は300万人分不幸になったわけではない

人口が減ること自体は、特に大きな問題ではない。日本の現在の人口は、ピークから300万人ほど減って1億2534万人であるが、では300万人分だけ不幸になったのかというとそうではない。日本の人口は1967年に1億人だったが、ではそのころの人たちが今と比べて1割ほど不幸だったのか、というとやはりそれも定かではない。台湾の人口は2360万人であるが、では彼らが日本にくらべて多くの問題を抱えているかというとそういうことではない。問題は人口の多寡ではなく、課題を解決することができない都市になってしまうことである。社会の課題は次々と押し寄せる。人口減少によって引き起こされる課題もたくさんあるが、人口と関係なく災害は起きるだろうし、人口と関係なく政治と経済がうまく機能しなければ格差は広がる。

wp-image-2219
街中で新しいビルが建設されていた。2024年に完成するとのこと。2020年ごろ撮影。

人口が増えている時、都市が拡大している時は、そういった課題を新しく建物を作ることで解くことができた。古い建物を壊して新しい建物をつくることで安全なまちをつくることができたし、公営住宅をたくさんつくって貧困層をすくい上げることもできた。しかしこれからは、何ともはっきりしない調子でしか変化しない都市の空間を使って、どう課題を解決するのかを考えなくてはならない。あちこちでバラバラに、散在的に発生する開発と縮小の機会をつかって、課題を解決できる都市をどう作っていくのかが問われているのである。

新しい未来都市ができるという誤解

「スマートシティ」とは、都市に次々と押し寄せる課題を、情報技術を使って、今までよりも素早く解決できる都市のことである。災害からの避難、格差の解消、貧困に陥った人の住まいの確保、健康の増進、高齢者の自宅での暮らし、交通の渋滞……など、様々な課題を素早く解決できる都市のことである。都市はそもそも課題を解決する手段の集合体としてつくられてきたが、そこで発達した空間に関する工学と交通に関する工学に、情報工学を加えて、空間と交通だけで十分に解決できなかった課題を解決できるような都市にしよう、という考えがスマートシティである。

何度もあちこちのメディアでそのイメージが語られているので、ここでは繰り返さない。しかし「スマートシティ」という言葉がやや誤ったイメージを伝えてしまうことがある。それは、「どうやらスマートシティという新しい未来都市ができるらしい」という誤解である。例えば中国の雄安新区、Googleが建設を諦めたカナダトロントのGoogle city、あるいはトヨタが開発するウーブン・シティなど、最新の技術だけでつくられたスマートシティはニュースにもなりやすいし、そこで喧伝されるイメージには、夢をかき立てる力がある。もちろん、最新の技術をつくし、最新の都市をつくることは可能であるが、問題はそれはもはや私たちの都市のごく一部でしか実現できない、ということである。もし今の日本の人口が3000万人くらいで、これから1億人が増えるという状況なのであれば、まっさらの土地に広大なスマートシティを力をあわせて作ってもよいだろう。しかし、私たちはすでに1億3000万人が不自由なく暮らせる都市を手に入れている。「新しい未来都市」をつくる余地はほとんど無いのである。

スマートシティを実現する方法はないのか

しかし、社会の課題は待ったなしで次々と押し寄せる。では、スマートシティを「新しい未来都市」でなく、あちこちでバラバラに、散在的に発生する開発と縮小の機会をつかって実現するにはどうすればよいかを考えていこう。

「新しい未来都市」が、1000の建物で構成されているとしよう。それぞれの建物には1000の最新技術が埋め込まれているため、そこで暮らす人はどこにいても最新技術を使って課題を解決することができる。一方で、私たちの都市にすでにある1000の建物は様々な古さの建物で構成されている。築40年程度で古くなった建物が順番に建て替えられるとすると、1000棟/40年=25棟の建物が毎年建て替えられることになる。毎年2.5%の建物が建て替えられ、全てが建て替わるまで40年かかるということだ。最新技術は新しい建物にしか入らないので、25の最新技術しか都市に埋め込まれず、全ての建物に最新技術が行き渡るには40年かかり、その間に最新技術はとっくに古びてしまう。これでは、いつまでたってもスマートシティになることができない。

wp-image-2221
大阪駅の北口にて。再開発で新しいビルが作られる中、まだ暗い場所もある。

では少し発想を変えてみよう。25棟に入る最新技術が、その周辺の7棟の建物をサポートする、というルールにすればどうなるだろうか。たとえば電車の中でスマートフォンのスイッチを入れると、同じ電車の中にいる人たちが使っているWI-FIのシグナルをたくさん検出することができる。それぞれは知らない人に使われないようにセキュリティコードで厳重に保護されているのだが、それを7人に限って使えるルールにしてみよう、というイメージである。そうなると、電車の中のネットワークの数は1/8に絞られ、合計でみると、全員がWI-FIを使うよりも少ないエネルギーで全員がネットワークに接続することができる。

電車の中でたまたま乗り合わせた人たちの間には関係が全くないので、そんなことは怖くてできないだろう。しかし建物が隣り合っている人たちの間では、なんらかの関係をつくることができる。そしてその関係を基礎として、一つの新しい建物に最新技術が入る時に、それを周辺の7棟も使えるようにする、というルールを適用していく。例えば独居の高齢者の見守りをするシステムを一つの建物に入れ、そのシステムで周辺の建物で暮らす高齢者の見守りもついでに行うようにする、ということである。毎年25棟の建物に最新技術が入るので、周辺の7棟を入れると200棟の建物が最新技術を使えるようになる。それを繰り返していけば、5年で全ての建物が新しい技術を手に入れることができる計算になる。5年で完璧な高齢者の見守りシステムが構築されるということだ。そして5年経つとさらに新しい技術が開発されるので、6年目の25棟はさらに新しい技術を入れていけば、その都市には常に最新の技術がアップデートされた状態になる。

実は段階的に開発された都市の方が、優れた課題解決能力を持つ

この方法は、同時に1000の最新技術を組み込んで作られる「新しい未来都市」よりもすぐれている。なぜならば、同時に作られる建物は同等の新しさを持っているために、そこでは40年間建て替わりが起こることはなく、次にそこに最新技術が入るのは40年後になるからである。最初の数年間はピカピカの最新技術に囲まれるとしても、5年、10年とその都市で暮らすうちに、技術はあっという間に時代遅れになってしまい、都市に次々と押し寄せる課題を解決することが出来なくなってしまう。スマートフォンや自動車であれば古くなったら気軽に買い換えることができる。しかし建物を買い替えること、それを壊して新しくすることはそれほど気軽にできることではない。30年、50年という長い目で見た時に、同時に開発された都市よりも、段階的に開発された都市の方が、すぐれた課題解決能力を持つポテンシャルがあるのである。

もちろん、そこにつくられるルールが重要である。誰かが自分の建物に導入される技術を、自分だけのために使おうとしてしまった時にはこのシステムは崩壊する。そして少し古くなる技術と、新しく導入される技術の間を断絶なくつなげていけることも重要である。建物の仕様も、そこで使われる電化製品の仕様も、それを所有している個人に仕えることが大前提となっており、その周辺にいる他者を支えることが前提にはなっていない。とはいえ、ちょっとした技術の仕様の工夫や、技術同士をつなぐプロトコルの設定で簡単に実現できるようにも思われる。
冒頭に述べたように、私たちの社会はもう新しい都市をゼロからつくる力を失ってしまっている。選択の余地がたくさんあるわけではなく、スマートシティをつくっていくには、この方法に頼るしかないのではないだろうか。