饗庭伸

饗庭伸

カナダの世界遺産・ケベックシティの夜景。2010年ごろ撮影。

(写真:佐藤秀明

未来都市は「分け合う」ことで実現できる

DX化された未来を思い浮かべるとき「スマートシティ」を連想する人は少なくないだろう。しかし都市計画の専門家である饗庭伸氏は、「日本において全く新しい未来都市が誕生する」と考えるのは誤っているという。では、どうすればスマートシティは実現できるのか。饗庭氏のユニークなアイディアを紹介する。

Updated by Shin Aiba on March, 23, 2022, 8:50 am JST

実は段階的に開発された都市の方が、優れた課題解決能力を持つ

この方法は、同時に1000の最新技術を組み込んで作られる「新しい未来都市」よりもすぐれている。なぜならば、同時に作られる建物は同等の新しさを持っているために、そこでは40年間建て替わりが起こることはなく、次にそこに最新技術が入るのは40年後になるからである。最初の数年間はピカピカの最新技術に囲まれるとしても、5年、10年とその都市で暮らすうちに、技術はあっという間に時代遅れになってしまい、都市に次々と押し寄せる課題を解決することが出来なくなってしまう。スマートフォンや自動車であれば古くなったら気軽に買い換えることができる。しかし建物を買い替えること、それを壊して新しくすることはそれほど気軽にできることではない。30年、50年という長い目で見た時に、同時に開発された都市よりも、段階的に開発された都市の方が、すぐれた課題解決能力を持つポテンシャルがあるのである。

もちろん、そこにつくられるルールが重要である。誰かが自分の建物に導入される技術を、自分だけのために使おうとしてしまった時にはこのシステムは崩壊する。そして少し古くなる技術と、新しく導入される技術の間を断絶なくつなげていけることも重要である。建物の仕様も、そこで使われる電化製品の仕様も、それを所有している個人に仕えることが大前提となっており、その周辺にいる他者を支えることが前提にはなっていない。とはいえ、ちょっとした技術の仕様の工夫や、技術同士をつなぐプロトコルの設定で簡単に実現できるようにも思われる。
冒頭に述べたように、私たちの社会はもう新しい都市をゼロからつくる力を失ってしまっている。選択の余地がたくさんあるわけではなく、スマートシティをつくっていくには、この方法に頼るしかないのではないだろうか。